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蛍光分子から100%のEL発光効率を実現する新発光機構による有機EL素子の開発に成功

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九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)水素製造研究部門・主任研究者の安達千波矢教授の研究グループは、英国国際学術誌Nature姉妹誌のオンラインジャーナルである『Nature Communications』に研究成果を発表しました。

 

 

■概要

九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)センター長/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(ICNER)主任研究者 安達千波矢教授、中野谷一助教(実験当時、公益財団法人九州先端科学技術研究所研究員)らの研究グループは、内部EL量子効率(※1)100%を示す蛍光材料を発光材料とした有機EL素子の開発に成功しました。本研究では、蛍光材料を発光材料とする有機EL素子の発光層中に熱活性化遅延蛍光(TADF(※2))材料をアシストドーパント(※3)としてドーピングすることにより、蛍光分子からのEL発光効率を究極の100%まで向上させることに成功しました。本手法は、蛍光材料を発光材料とした有機EL素子の内部EL量子効率を理論限界の25%から100%への向上を汎用的かつ簡便な手法で実現するものであり、高い素子耐久性を示す蛍光材料を発光材料とする有機EL素子の新たな設計指針を確立したものです。これにより、従来から開発されてきた広範な蛍光材料を発光材料に用いて、100%の効率で電気から光に変換できるようになりました。

本研究成果は、2014 年 5月 30 日(金) 18時(日本時間)に、英国国際学術誌Nature姉妹誌のオンラインジャーナルである『Nature Communications』に掲載されました。

 

 

■背景

蛍光材料を発光材料とした有機EL素子は、一重項励起状態(S1)からの放射遷移を発光として利用するものであり、1980年台後半から研究開発が開始され(関連参考文献1)、広範な材料開発により、現在ではディスプレーや照明用途として魅力的な発光デバイスとして実用化が進められてきました。しかしながら、蛍光材料を発光材料とした有機EL素子はリン光材料を発光材料とした有機EL素子と比較し、高い素子耐久性を示すものの、その内部EL量子効率の理論限界は25%に留まり、発光効率の向上が長年の課題となっていました。これまで、OPERAでは、内閣府最先端研究開発支援プロジェクト(FIRST)において、熱活性化遅延蛍光(TADF)による第三世代の有機発光材料「Hyperfluorescence」を用いた高効率有機ELデバイスに関する研究開発を進めてきました(関連参考文献2,3)。

 

 

■内容・効果

本研究では、TADFの三重項励起子を一重項励起子にアップコンバージョンする技術をさらに発展させ、蛍光分子を発光材料とする有機EL素子中にTADF材料をアシストドーパントとして有機EL素子の発光層中へ分散することで、電気励起下でTADF分子上にて生成された三重項励起子と一重項励起子を、すべて蛍光分子へエネルギー移動させることが可能になり、100%の効率で蛍光分子からの発光を得ることに成功しました。また、本手法を用いた素子では、最終的に励起子を光にする発光材料として電気化学的に高い安定性を有する蛍光分子を用いることから、素子の駆動耐久性も著しく向上できることも明らかにしました。このように本研究は、長年に渡り研究開発がなされてきた、合成化学的に設計自由度の高い蛍光分子を発光材料として用いる有機EL素子に適切なTADF分子を発光層にアシストドーピングするという、汎用性が高くかつ簡便な手法によって、発光効率を飛躍的に向上する新発光機構として、有機EL素子の究極のデバイス設計指針を実証するものです。本研究成果により、レアメタルを含有する有機金属発光材料を使用することなく、蛍光分子を用いて、高効率EL発光と高耐久性の両立させることが可能となり、TADFを用いた有機ELデバイスの早期実用化につながります。

 

 

■今後の展開

有機ELデバイスの実用化のためには、デバイスの耐久性を向上させることが重要な技術課題です。本研究成果の手法を用いることで、高効率と高耐久性の両立が可能であることを示しましたが、今後は、アカデミックな視点から、より詳細な物性解析を進め、有機半導体デバイス物理の学理の確立とレーザーデバイス等の新デバイスの創出に挑戦していきます。本課題は、本年4月から本格スタートしているJST-ERATO安達分子エキシトン工学プロジェクト(別紙(2014年5月1日プレスリリース)参照)にて進めていきます。また、TADF材料を用いた有機EL素子の迅速な実用化を目指して、有機光エレクトロニクス実用化開発センター(i3-OPERA)(※4)等との連携により、TADF材料開発・デバイス開発・プロセス開発を統合し、高効率で耐久性のあるTADF発光材料のラインナップを揃えることで、光の三原色を示すRGBの発光や白色OLEDを実現していきます。

 

論文名:High-efficiency organic light-emitting diodes with fluorescent emitters

雑誌名:Nature Communications  DOI: 10.1038/ncomms5016

著 者:Hajime Nakanotani, Takahiro Higuchi, Taro Furukawa, Kensuke Masui, Kei Morimoto, Masaki Numata, Hiroyuki Tanaka, Yuta Sagara, Takuma Yasuda and Chihaya Adachi

 

 

【関連参考文献】

1) C. W. Tang, et al., App. Phys. Lett. 51, 913 (1987). C. Adachi, et al., App. Phys. Lett. 57, 531 (1990).

2) A. Endo, M. Ogasawara, A. Takahashi, D. Yokoyama, Y. Kato, C. Adachi, Adv. Mater. 21, 4802 (2009).

3) H. Uoyama, K. Goushi, K. Shizu, H. Nomura, and C. Adachi, Nature 492, 234 (2012).

 

 

【参考図面】

図1:TADF をアシストドーパントに用いた蛍光材料を発光材料とする新発光メカニズム

 

図2:本提案による有機EL素子特性とELスペクトル

 

 

【用語解説】

※1 ηint(内部EL量子効率)および hext(外部EL量子効率):

素子に注入された電子と正孔の再結合によってデバイス内部で生じる光子(フォトン)の割合を内部EL量子効率といい、薄膜デバイス内部で発生した光をデバイスの外部に取り出す効率を外部EL量子効率といいます。光取り出し効率(ηp)とηint(内部EL効率)の積からなり、以下の関係式で表されます。

<内部EL効率と外部EL効率の関係式>

内部EL量子効率(hint)=電荷注入輸送効率(g)×励起子生成効率(ηr)× PL量子収率(ηPL

外部EL量子効率(hext)=内部EL量子効率(hint)×光取り出し効率(ηp

 

※2 TADF(Thermally Activated Delayed Fluorescence):

有機分子の励起状態には、一重項励起状態(S1)と三重項励起状態(T1)の2つのスピン多重度の異なる状態が存在しますが、電子とホールの再結合による励起子生成過程では、スピン統計則に従って、一重項励起子が25%の確率で生成され、三重項励起子が75%の確率で生成されます。TADFは、励起三重項状態から励起一重項状態への逆エネルギー移動を熱活性化によって生じさせ、蛍光発光に至る現象を示します。三重項経由で発光が生じるために一般に寿命の長い発光が生じることから遅延蛍光と呼ばれます。今回、TADF材料をアシストドーパントとして用いることにより、高効率な蛍光性有機EL素子を創出しました。

 

※3 アシストドーパント

通常、有機ELの発光層はホストと発光ドーパントから形成され、発光ドーパントからのEL発光が得られる。本プロジェクトで開発された有機発光材料「Hyperfluorescence」を発光層中に添加することで、電気励起により生成された全ての励起子を発光ドーパントへ移動することが可能となり、高効率なEL発光を発現することができる。

 

※4 有機光エレクトロニクス実用化開発センター(i3-OPERA:アイキューブ オペラ)

九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)を中心とする北部九州地域の研究機関で新しく生み出された有機光エレクトロニクス分野の最先端材料をいち早く実用化するため、その材料を用いて作製したデバイスを、産学官連携による迅速かつハイレベルな評価・解析を行うことにより、ディスプレイや照明パネルの量産化に必要不可欠なデバイス構造の最適化(最高性能の引出し)を可能とする「技術の橋渡し拠点」として、(公財)福岡県産業・科学技術振興財団に設立されました(住所:福岡市西区九大新町5番地14)。今後の企業との共同研究や委託開発の拠点として、TADFの実用化開発をOPERAと連携して推進していきます。