お知らせ

地中に貯留したCO2を連続的にモニタリングする手法を開発〜安全なCO2地中貯留によるCO2の削減・温暖化防止に向けた試み〜

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■ 概要

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の池田達紀学術研究員、辻健准教授と、東京大学の渡辺俊樹教授、名古屋大学の山岡耕春教授らの研究グループは、二酸化炭素(CO2)地中貯留で、連続的に微小振動を発振する装置(アクロス)(※1)を利用して、貯留したCO2を高い精度で連続的にモニタリングする手法を開発しました。CO2地中貯留を行うことで、近未来的にCO2を大幅に削減することができると考えられています。一方で、万が一CO2が貯留層から漏洩した場合、それを直ちに検出し、貯留作業を止める必要があります。

この装置によって発振された連続振動を、地震計で記録し、特に表面波(※2)と呼ばれる地震波に注目した解析を行うことで、CO2の漏洩を高い精度で検出できることが分かりました。この手法により、比較的安価に貯留したCO2をモニタリングすることができ、また、突然のCO2の漏洩にも対応できると考えられます。本研究成果は、2015年12月23日(水)にElsevier社の国際学術誌「International Journal of Greenhouse Gas Control」のオンライン版で公開されました。

 

■ 背景

CO2の回収・貯留(CCS :Carbon dioxide Capture and Storage)プロジェクトでは、発電所といったCO2の排出源においてCO2を分離・回収し、地下深部(約1000m)に貯留することで、大気中へのCO2排出を削減します。既に海外では、いくつかのCCSプロジェクトが実施されています。国内でも、北海道の苫小牧市でCO2の地中貯留が、来年から予定されています。このCCSというアプローチは、近未来的にCO2を削減できる技術として注目され、今月フランスのパリで開催された、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においても、その重要性が指摘されています。日本の環境省も、CCSは石炭火力発電所の運転に不可欠であると指摘するなど、近年注目されている技術です。日本周辺にもCO2を貯留できる地層があり、日本の総CO2排出量の約100年分を貯留できるという試算もあります。

このようにCCSプロジェクトはCO2の削減に寄与できると考えられていますが、CO2が漏洩する心配もあります。そのため、モニタリング調査を繰り返し実施し、貯留したCO2の状態を確認する必要があります。しかしモニタリング調査は高価であるため、貯留層内のCO2を連続的に高い精度でモニタリングするのは難しいのが現状です。

 

■ 内容

本研究グループは、貯留したCO2を精度良く、また連続的にモニタリングするため、微小な振動を発振し続ける装置(アクロス)を利用し、地中に貯留したCO2を連続的にモニタリングする手法を開発しました。アクロスによって連続に発振された波を地震計で観測し、特に表面波と呼ばれる地震波に注目した解析を行うことで、地下で生じた変化を高い精度でモニタリングすることに成功しました。今回開発した方法では、1時間ごとに表面波の伝わる速度の変化をモニタリングできるため、突発的に発生した地下の変動(例えば、突然のCO2の漏洩)を早急に検出することが可能となります。また今回開発した手法によって、波の伝わる速度変化を1%より高い精度で検出できることが分かりました。この検出精度があれば、万が一、亀裂に沿ってCO2が漏洩した場合でも、それを検出できることが数値シミュレーションにより明らかになっています。このアプローチは、今後のCO2地中貯留において、有効なモニタリング手法となり得ると考えられます。

 

■ 効果

本手法を用いることで、これまで不連続的に実施してきたCO2のモニタリングを連続的に実施でき、突然のCO2の漏洩に対応できることが可能になりました。また、一般的な貯留CO2のモニタリング調査は高価であることに対し、本手法はアクロスと地震計の設置だけで済み、安価に連続モニタリングを実施することができます。

アクロスの安定した発振波形を、常時設置された地震計によって計測することで、高い精度でCO2漏洩による地下の変化を検出することができます。

 

■ 今後の展開

今回の研究では、実際のCO2貯留サイトではなく、実験的にデータの取得と解析を行いましたが、今後は、実際のCO2貯留サイトで、適用したいと考えています。

I2CNER CO2貯留研究部門では、大気中のCO2削減を目的として、安全にCO2を地下貯留するための技術開発を行っています。CO2をモニタリングする技術に加えて、CO2を貯留する地層を事前に詳細に調べて、亀裂といった漏洩経路の有無を確認する物理探査手法の開発を行っています。また、貯留層内のCO2の挙動を予測するモデリング手法も開発し、時々刻々と変化する貯留層の状態を正確に把握することを目指しています。これにより、効率的で安全なCO2の貯留が可能となると考えられます。

2015年の世界の年平均気温が、2年連続で過去最高を更新する見通しであり、その理由にCO2排出による地球温暖化が挙げられます。気候変動は一度起こってしまうと元に戻るのが難しい問題と考えられ、CO2の排出削減は喫緊の課題です。CO2フリーのエネルギーが開発・普及されるまでにも、一刻も早くCO2を削減する必要があると考えられます。そのため、CO2貯留という近未来的な方法も必要になると考えられています。CO2フリー技術が開発されるまで、CCSは橋渡し的な技術として重要な役割を担うと考えられます。

 

図.貯留したCO2をアクロスと地震計を利用して連続的にモニタリングし、漏洩CO2を検出

 

■ 用語解説

(※1)アクロス:精密制御定常信号システム (ACROSS)の略称。一つまたは複数の正弦波を精密に連続して送信することができる。信号源は、偏心したおもりを回転させることによって発生する遠心力である。

(※2)表面波:地震波の一種であり、地表面に沿って伝播する特性を持つ。

 

■ 論文

タイトル:Development of surface-wave monitoring system for leaked CO2 using a continuous and controlled seismic source

著者:池田 達紀、辻 健(九州大学)、渡辺 俊樹(東京大学)、山岡 耕春(名古屋大学)

掲載誌:International Journal of Greenhouse Gas Control

 

■ 掲載記事

・ エキサイトニュース(1月1日)

・ 環境展望台(12月25日)