お知らせ

辻 健准教授らの研究成果が『Earth and Planetary Science Letters』のオンライン版で発表されました

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2015年9月22日(米国時間)、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 CO2貯留研究部門長、辻健准教授らの研究グループが紀伊半島の沖合に古く硬い地質帯を発見し、Elsevier 社の国際学術誌『Earth and Planetary Science Letters』でその研究成果を発表しました。地震・地質の研究は、カーボンニュートラル・エネルギー社会を目指すためのCO2貯留研究とも密接な関係があり、今回の地質帯の発見によってCO2貯留研究においても新たな展開が期待されます。CO2地中貯留では、CO2圧入に伴う地震の誘発が世界中で心配されています。地震の誘発が、CO2貯留を妨げている大きな原因になっています。またCO2を貯留する場所の地質構造を調べることは、CO2貯留を実施する上で前提となっています。今回は、(地球物理データが豊富に取得されている)南海トラフの地質構造と地震が対象として、CO2貯留サイトを調べるのと同じ手法を用いて調査を行い、地質モデルの構築を行いました。

 

■概要

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の辻健准教授、東京大学の木村学教授らの研究グループは、南海トラフで取得された地球物理データと深海底掘削(※1)で得られた地質試料の年代測定結果を用いることで、これまで知られていなかった古い地質帯が、紀伊半島の南東岸に沿って沖合 40km くらいまで分布していることを明らかにしました。この古い地質帯は硬く、地震の際に変形を起こさないことや、その海側にある新しい地質帯を変形させていることが分かりました。さらに今回の結果から、過去の南海トラフは紀伊半島の南東岸と平行に発達し、現在の位置とは異なっていたことが明らかになり、南海トラフが現在の位置に移動したのは、地質学的には最近の 200 万年前以降であることも分かりました。今回、明らかになった古い地質帯は、潮岬沖で南側(トラフ側)へ突き出しており、それが巨大地震の破壊域の境界(例えば、1944 年東南海地震と 1946 年南海地震の境界)に影響していることも分かってきました。つまり古い地質帯は、南海トラフで発生する地震の連動性や規模を考える上でも重要であると考えられます。

 

■背景

南海トラフでは、フィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込むことによって、巨大地震が繰り返し発生してきました。その際、フィリピン海プレートの上に乗っている堆積物が剥ぎ取られることによって、西南日本列島は成長してきたと考えられています。しかし、南海トラフにおける日本列島の成長過程と、それに影響を受けて発達する地質構造は、あまり明らかになっていませんでした。その地質構造は、巨大地震の破壊域に影響を与えると考えられます。地震の破壊域の大きさは、地震や津波の大きさに関係するため、その解明が急がれています。例えば、1944 年の東南海地震と 1946 年の南海地震では、紀伊半島潮岬沖で破壊域が分かれました。しかし、1707 年の宝永地震の際には、潮岬沖で破壊域が分かれることなく、破壊域が連動した巨大地震となってしまいました。このような地震破壊域の境界には、何らかの地質構造が存在すると考えられますが、まだ解明されていません。それが解明されれば、連動型巨大地震の謎「なぜ、ある地震の時にだけ破壊域が連動するのか?」にも迫ることができると考えられます。本研究では、南海トラフにおける地質帯の発達過程や、巨大地震の破壊域を制約する地質構造に迫るため、地球物理データの解析を行い、また、深海底掘削で得られた地質試料の年代測定結果も用いました。その結果、紀伊半島沿岸に古くて硬い地質帯を発見し、それが断層構造に大きな影響を与えていることが分かってきました。また、今回発見した地質構造は、南海トラフで発生する巨大地震の破壊域をコントロールしている可能性があることも分かってきました。

■内容

地震探査とよばれる、医療用のエコーと同様の原理で地下構造を調べる手法を用いることで、約 1400万年前までに形成された古い地質帯が、紀伊半島の南東岸から 40km くらい沖合まで海岸線に沿って連続的に分布していることを発見しました(図、橙色部分)。また、この古い地質帯は非常に硬く、地震に伴う変形をほとんど受けていないことが明らかとなりました。この古い地質帯の海側には、新しい地質帯が接していること(図、黄色部分)、この新しい地質帯に発達する断層は古い地質帯と平行に発達していることが分かりました(図、右)。つまり、古くて硬い地質帯はブルドーザーのように、海側の新しい地質帯を変形させていることが分かりました。地質帯の年代や硬さに大きな差がある原因として、約 1400 万年前〜600 万年前はフィリピン海プレートの沈み込みが停止していた(または、沈み込み速度が非常に遅かった)ことが考えられます。プレートの沈み込みが停止することで、岩石の固結が進み、硬さに違いが生まれたと解釈できます。今回、発見した古い地質帯の分布と深海底掘削で得られた地質試料の年代測定結果から、約 600 万年前までは南海トラフは紀伊半島の南東沿岸と平行して発達しており、現在の南海トラフの位置とは大きく異なることが分かりました(図、左)。南海トラフが現在の位置に移動したのは、地質学的には最近の 200 万年前以降であることも明らかになりました。紀伊半島沖の過去の南海トラフの位置を推定したのは、本研究が初めてです。今回の発見は、これまで考えられてきたよりも複雑な地質構造があることを示しており、プレート境界域における地殻変動を理解する上でも極めて重要な科学的成果と考えられます。さらに、今回明らかになった古くて硬い地質帯は、南海トラフで発生する巨大地震にも関係していると考えられます。古い地質帯は、潮岬沖で南側(南海トラフ側)へ突き出しており、それが巨大地震の破壊域の境界(1944 年東南海地震と 1946 年南海地震の境界;図右緑破線)と一致しています。古い地質帯が突き出している潮岬沖では、プレート境界の地震断層が深くなっており、その断層形状の変化等が巨大地震の破壊域に影響を与え、地震を止めることが考えられます。つまり、過去の地質帯の分布が、地震発生域に影響を与えている可能性が分かってきました。このことから、今回発見した古い地質帯の分布は、南海トラフで発生する地震の連動性(規模)を考える上で重要であると考えられます。


図.紀伊半島沖南海トラフの発達過程(模式図)。青線は、南海トラフの位置を示す。

■効 果

今回の研究から、南海トラフでは地質帯が一様に分布しているのではなく、古い地質帯と新しい地質帯が接していることが分かりました。また古い地質帯は硬く、地震の際に大きな変動を引き起こさないこと、反対に新しい地質帯は柔らかく、地震に伴う変形を強く受けていることが分かりました。今回明らかとなった地質構造を考慮して、地震・津波の伝播を計算すると、これまで予想されていた津波や地震動の大きさが変わってくる可能性があります。南海トラフで発生するプレート境界型の巨大地震の破壊域は、地震動や津波の大きさに関係するため、常に議論されています。特に 2011 年の東日本太平洋沖地震以降は、南海トラフで発生する地震の破壊域が大幅に見直され、予想される津波のサイズが大きくなりました。しかし、その破壊域をコントロールしている地質構造については、未だに良く分かっていません。今回の研究で、南海トラフで発生する地震の破壊域の境界に影響を与えると考えられる地質構造を明らかにすることができました。南海トラフで発生するプレート境界型の巨大地震の連動性を議論する際に、重要な情報となると考えられます。

■今後の展開

今回は紀伊半島沖の地質構造を調べましたが、同様の構造は、室戸岬や足摺岬にも発達している可能性があります。今後は、そのような地域にも同様の解析を適用し、南海トラフ全域の地質帯を調べ、それがどのように地震の破壊域と関係しているのかを調べていく予定です。それにより、日本列島の形成史の解明、地震防災に貢献できると考えています。また、今回発見した古い地質帯(あまり変動しない場所)を考慮して、津波の発生場所を詳細に調べることを試みる予定です。特に潮岬では、地震発生後、短い時間で津波が到達するとされていますが、今回発見した構造はその到達時間と関係する可能性があります。

■論文

タイトル:Identification of the static backstop and its influence on the evolution of the accretionaryprism in the Nankai Trough

著者:辻 健(九州大学)、芦 寿一郎(東京大学)、Michael Strasser(インスブルック大学)、木村 学(東京大学)

掲載誌:Earth and Planetary Science Letters

 

記事掲載

  • 日本経済新聞 紀伊半島沖合で硬い地質帯発見 (2015/10/19)