九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)CO2貯留研究部門長・主任研究者の辻健准教授の研究グループは、Springer社の国際学術誌『Earth, Planets and Space』のオンライン版に研究成果を発表しました。
■背景
南海トラフでは、フィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込んでいます。しかしフィリピン海プレートは、南海トラフに対して垂直方向に沈み込んでいるのではなく、斜め方向に沈み込んでいます(図1aの黒矢印)。このため南海トラフ地震発生帯の周辺に発達する断層は、横ずれ断層の動き(図2c)をもつ可能性があります。しかし南海トラフ周辺の海底下に発達する断層の横ずれの動きの評価は難しく、これまで定量的に調べられていませんでした。また南海トラフに発達する横ずれ断層と、地震や津波の発生機構の関係を議論されることも、ほとんどありませんでした。
南海トラフの巨大分岐断層は、1944年の東南海地震や1946年の南海地震で破壊が生じ、津波を発生させたと考えられています。この巨大分岐断層が海底に達している場所は、南海トラフから約30km陸側に位置しており(図1a赤線)、その場所より陸側(北側)で津波が発生すると考えられてきました。
今回の研究では、巨大分岐断層は横ずれの断層運動が大きいこと、津波を発生させる変動は南海トラフ(図1a黄線)まで達する可能性が高いことを明らかにしました。これにより、南海トラフに発達する巨大分岐断層の役割が、これまで考えられてきたものから変わってきました。
■内容
本研究では、反射法地震探査データを解析し、南海トラフに広域的に発達する分岐断層周辺の断層構造を詳細に調べました(図2)。その結果から、分岐断層の浅い部分は、横ずれ断層に典型的な構造(フラワー構造)をしていることが分かりました(図2b, d)。また高解像度の海底地形データの解析結果から、分岐断層の運動に伴う変動地形を調べました(図1)。海底地形データから、紀伊半島の沖合の海底には、海底谷(海底の川)が存在することが分かっています。この海底谷は、主に乱泥流によって形成されています。解像度の高い海底地形データをもとに海底谷の地形を調べたところ、分岐断層が海底に達している場所では、海底谷が約6kmも横にずれていることが分かりました(図1b黄色矢印)。この6kmのずれは、分岐断層の横ずれの動きによって生じたと考えられます。この6kmのオフセットや地震探査で明らかとなった地質構造から、分岐断層は速い速度(おおよそ2cm/年)で横ずれ断層として滑っていることが判明しました。さらに海底谷では浸食が激しいにも関わらず、海底谷の底に横ずれ断層に伴う変形(図1b)が見られたことから、現在も横ずれ断層が活動していることは明らかであると考えられます。
研究グループの過去の研究から、巨大分岐断層はトラフ軸から30km陸側で海底に分岐しているだけでなく、南海トラフ軸周辺まで連続的に伸びている可能性があることが分かっています(2014年4月28日プレスリリース参照)。また別の研究から、分岐断層の浅い部分では逆断層型の動き(図2c)が小さいことも判明しています。つまり巨大な津波を発生させる断層運動(逆断層運動;図2c)は、分岐断層の浅い部分を伝わらず海側に発達する断層を伝わり、南海トラフへ伝播することが分かってきました(図2d青線)。一方で、分岐断層の浅い部分は、横ずれの断層運動(図2d赤矢印)に優位であることが明らかになりました。
逆断層型の滑りでは、一般的に不連続的な断層が形成されます。しかし南海トラフに発達する分岐断層は、水平距離200kmにも及ぶ大断層を形成しています(図1c)。この水平方向に連続的な断層を形成させるためには、横ずれの動きが必要となります。つまり東南海地震と南海地震の震源域の境界をまたいで連続的に発達する巨大分岐断層の形成には、横ずれ方向の動きが重要な役割を果たしていると考えられます。
■効果
本研究によって、南海トラフから30km陸側に位置する分岐断層の浅部は主に横ずれ断層として運動し、巨大津波を引き起こす逆断層型の滑りは南海トラフ周辺にまで伝播する可能性が高いことが示されました。横ずれ断層は、大きな津波を発生させないと考えられます。一方で、逆断層型の滑りがトラフ軸周辺まで伝播すると、津波発生域が広くなります。このように巨大分岐断層の運動が、これまでの見解から変わったことにより、津波発生域の評価や津波発生メカニズムについても新たな解釈が必要になります。

図1.
(a)紀伊半島沖の南海トラフ全域の海底地形。赤色の線は分岐断層の位置、黄色の線は南海トラフの位置を表す。ピンク色の四角はパネル(b)の位置、紫色の線は図2の断面図の場所を示す。
(b) 潮岬沖の海底谷に見られる「横ずれ」地形。赤破線は横ずれ断層の位置を示す。黄色い丸で示された崖に「ずれ」が見られる。約30万年前は、この壁は連続していたと考えられる。
(c) 南海トラフの広域的な3次元海底地形。調査地域の西側から東を望む。黄色の矢印は、南海トラフに沿って200kmにわたって連続的に存在する分岐断層。

図2.
(a) 研究グループの過去の研究で明らかとなった熊野沖の間隙水圧・断層分布。赤色は間隙水圧が高い状態で、地震が発生しやすい領域を示す。南海トラフ軸から30km付近の横ずれ断層周辺で断層が動きやすい(間隙水圧が高い)ことが分かる。
(b) 潮岬沖の断層分布。縦軸は往復走時で、深度に対応する。トラフ軸から30kmにある分岐断層の構造が、典型的なフラワー構造をしている。
(c) 逆断層と横ずれ断層の模式図。
(d) 本研究で明らかとなった横ずれ断層周辺のフラワー構造の模式図(トラフ軸から約30kmの地点)。赤い部分が横ずれ断層群を表す。逆断層型の滑りは南海トラフへ続く断層(青線)へ伝播し、津波発生域が海側へ延びる可能性が示唆された。
■今後の展開
今回の研究で得られた結果から、これまで考えられていなかった断層の動きが明らかになってきました。しかし横ずれ断層が巨大地震発生時に動くのか、小さい地震によって動くのかなど、まだ明らかになっていない部分もあります。今後は海底測地データや微小地震のデータを取得・解析し、横ずれ断層の動的挙動の解明を行い、さらに本研究で得られた結果を地震発生モデルに取り入れ、地震時の断層挙動や津波発生過程を定量的に調べる予定です。
カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所CO2貯留研究部門では、大気中の二酸化炭素(CO2)削減を目的として、CO2を地下貯留するための技術の開発を行っています。今回の研究で用いた解析は、CO2貯留に適した地質構造を広範囲に探査する技術と同じです。この探査技術を使って、断層が発達している地震発生帯を調べることで、断層の評価技術の確立を目指しています。もちろん活動的な断層が発達する場所はCO2の貯留を行うことはできません。今後、日本でも大規模なCO2の地下貯留が行われる予定です。CO2を貯留する地層の安定性を調べるために、その地点で取得された地震探査データに同様の解析を実施し、CO2の安全な貯留を目的とした研究を進めていきたいと考えています。
■論文
題目: Strike-slip motion of a mega-splay fault system in the Nankai oblique subduction zone
著者: Takeshi Tsuji, Juichiro Ashi and Yasutaka Ikeda
雑誌名: Earth, Planets and Space (Springer)
DOI: 10.1186/1880-5981-66-120