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世界初の実海域における海底下CO₂漏出実験 -二酸化炭素回収貯留(CCS)技術の信頼構築への一歩-

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九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)CO₂貯留研究部門、下島公紀准教授らの研究グループは2014年9月29日『Nature Climate Change』のオンライン版に研究成果を発表しました。

 

■概要

「海域を利用した二酸化炭素貯留の環境影響評価に係る研究ネットワーク: Carbon dioxide Capture and Storage Environmental Assessment – Joint Participants Network(CCSEA-JPN)」に参加する公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 CO2貯留研究グループの喜田潤主任研究員、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の下島公紀准教授、株式会社環境総合テクノスの林正敏リーダー、一般財団法人 電力中央研究所地球工学研究所の海江田秀志研究参事、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の佐藤徹教授、独立行政法人 産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門の鈴村昌弘研究グループ長らは、英国QICSプロジェクトコンソーシアム(代表:プリマス海洋研究所, Jeremy Blackford博士)と共同で、世界で初めてとなる実海域での海底下からの二酸化炭素(CO2)漏洩実験を実施し、海洋環境への影響とその回復過程に関する評価に成功しました。

この成果の詳細は、ネイチャー・パブリッシング・グループ(Nature Publishing Group)ジャーナル「Nature Climate Change」に2014年9月29日(日本時間)オンライン掲載されました。

本研究は、実海域におけるCO2漏洩の検出手法やモニタリング手法開発、さらに海洋生物の反応に関する知見として、CCS技術の信頼構築に大きく貢献することが期待されます。

 

■背景・内容

人為的な海底下からのCO2漏出実験により、影響は極めて小さく、すぐに回復することが示されました。

今週のNature Climate Changeに、国際科学者チームによる世界初の人為的な海底下からのCO2漏出実験による研究成果が掲載されました。CCS技術に対しては、貯留したCO2が漏出することはないのかという懸念があります。この革新的な研究は、このような懸念に対してCO2回収貯留(CCS)技術の信頼性を検証することを目的として実施されました。実海域における小規模CO2漏出実験を行い、漏出イベントの検出・モニタリング手法の有効性を検証するとともに、海底および海水中の物理、化学、生物学的環境への影響が詳細に調査されました。本研究により、実施した規模の漏出による環境影響はわずかで狭い範囲に限定され、漏出を止めると化学的・生物学的な影響は急速に回復することが明らかになりました。

QICS(Quantifying and Monitoring Potential Ecosystem Impacts of Geological Carbon Storage)プロジェクトはプリマス海洋研究所のJerry Blackford博士をプロジェクトリーダーとし、英国研究委員会(Research Councils UK)、英国自然環境調査局(Natural Environment Research Council)、スコットランド政府および日本の複数の機関から資金を受けています。英国および日本の多数の研究機関が、2012年にスコットランドのオーバンに近いArdmucknish湾で人為的CO2漏出実験を共同で実施しました。実施に際して、スコットランド海洋科学協会(Scottish Association for Marine Science、SAMS)が現場実験のとりまとめや調整を行いました。

4.2トンのCO2(ガス暖房をする英国の1家庭からの年間CO2排出量より少ない)を、沖合350m、海底下11m(下図参照)にある漏出サイトに向けて、地上の研究室から岩盤を掘削したボーリング孔を通して37日間かけて注入しました。研究者らは、まずどのようにCO2が海底の堆積層およびその上部の海中へ移行するかをモニターしました。その後の12か月間、化学センサー、気泡の音響調査やダイバーによるサンプル採取など様々な手法を組み合わせて、周辺海域の化学的・生物学的影響を評価しました。

化学センサーと気泡音響調査技術の組み合わせは、漏出の検出や漏出がないことを保証する最善のモニタリング技術であることが示されました。

この模擬的な漏出は、同様規模のCO2漏出の影響が限定的であることを示しています。CO2による海底や海水中の化学的変化はCO2漏出の終盤近くで発生しましたが、これらの影響はCO2漏出停止後17日以内に元の状態に戻りました。

漏出の早期段階では生物学的な影響は見られませんでした。漏出期間の終盤と漏出終了後の早い段階で微生物の多様性や海底に生息する生物群集構造の変化が観察されましたが、これらの影響は有害とは程遠くまた長期間続くものではなく、数週間で完全に回復しました。

Blackford博士は、「これらの知見は気候変動緩和対策の一つとしてCCSを適切に普及させるために必要な知識基盤の向上、特に、法律で義務付けられた環境モニタリングの実際的な実施要件を検討する際に役立ちます。実験結果から、小規模漏出は有害なものではないことが示されましたが、さらに大量のCO2が漏出する場合はおそらく影響が大きくなると我々は考えています。海域の海水流動も重要で、より強く海水が混和すればCO2がより速やかに拡散するため、影響はより小さくかつより速やかに回復するだろう」と述べています。

実際のCCS事業において、海底下1kmにあるような貯留層からのCO2の漏出は起こりそうにないと考えられています。が、本研究では、海底下1kmにあるような貯留層の健全性については検討していませんが、万が一を想定した「What if」、海底からの漏出シナリオに答える調査を行いました。

 

リスク戦略を策定するCCS操業者に対する提言は以下の通りです。

 

・CCSサイトには、万一漏出イベントがあった場合にCO2拡散を促進する動的な水域を選定すべきです。

・包括的なベースライン調査、堆積物構造とその構成物質、海水の化学的特性、生物学的群集構造および海中音の網羅的調査がモニタリングの効率を最大化するために必要です。

・pHセンサーと気泡音響センサーの組み合わせは、漏出の早期検出を最大限にし、漏出が起こっていないことを相互に保証します。

 

*典型的な英国のガスを使用する家庭のエネルギー消費量は約4.8トンのCO2排出量に相当します。(Ofgem 2010)

 

■効果

これらの知見は気候変動緩和対策の一つとしてCCSを適切に普及させるために必要な知識基盤の向上、特に、法律で義務付けられた環境モニタリングの実際的な実施要件を検討する際に役立ちます。

 

■プロジェクトに関わった機関は次のとおり

Plymouth Marine Laboratory, Scottish Association for Marine Science, National Oceanography Centre, British Geological Survey, University of Southampton, University of Edinburgh, Heriot-Watt University (以上英国の機関)

公益財団法人地球環境産業技術研究機構、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所、株式会社環境総合テクノス、一般財団法人 電力中央研究所、東京大学、独立行政法人 産業技術総合研究所 (以上日本の機関)

 

 

■論文

Title: Detection and impacts of leakage from sub-seafloor deep geological carbon dioxide storage

Authors: Jerry BlackfordHenrik StahlJonathan M. BullBenoît J. P. BergèsMelis CevatogluAnna LichtschlagDouglas ConnellyRachael H. JamesJun KitaDave LongMark NaylorKiminori ShitashimaDave SmithPeter TaylorIan WrightMaxine AkhurstBaixin ChenTom M. GernonChris HautonMasatoshi HayashiHideshi KaiedaTimothy G. LeightonToru SatoMartin D. J. SayerMasahiro Suzumura,

  • Karen Tait
  • Mark E. Vardy
  • Paul R. White 
  • Steve Widdicombe

 

DOI: 10.1038/nclimate2381

Article first published online: 28 September 2014

 

■掲載記事

環境展望台(9月30日)