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魚の鱗表面と貝の接着成分の特徴を模倣した材料により、水中で防汚性を示す表面の作成に成功

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九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)水素製造研究部門・主任研究者の高原淳主幹教授の研究グループは、「Advanced Materials Interfaces」に研究成果を発表しました。

■概要

 自己清浄性表面の構築は低エネルギー消費、界面活性剤を使わない環境調和性の防汚技術の観点から注目を集めています。これまで多くの自己清浄性表面の調製に関する報告がありますが、簡便な手法による構築には成功していません。九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)水素製造研究部門主任研究者/先導物質化学研究所/JST ERATO高原ソフト界面プロジェクト研究総括の高原淳主幹教授、I2CNER水素製造研究部門学術研究員の馬 偉(Ma Wei)博士、JST ERATO高原ソフト界面プロジェクトのHang Xu博士らの研究グループは、水中で油を寄せ付けない防汚性表面調製のための防汚性を示す表面の簡単な手法を開発しました。本研究では、様々な基材との高い接着性を示すカテコール1基を有するL-3,4-dihydroxyphenylalanine(DOPA)2を成分に含む高分子を基板上に固定化し、その表面に交互積層法3でポリエチレンイミン4とポリアクリル酸5を積層することで、魚の鱗の表面の様な微細構造と超親水性を有する表面を調製しました。この表面は水中で優れた超撥油性・防汚性を安定的に示しました。

 

  本研究成果は、2014年2月11日にWiley社の国際学術誌「Advanced Materials Interfaces」の速報版で公開されました。

■背景・内容

油を付着しない超撥油性表面は、自己清浄性表面、指紋付着防止、耐生物汚損、配管摩擦低減等の様々な観点から注目されています。一般的に、超撥油性表面は親水性表面や微細凹凸等の複雑な構造を必要としていました。しかし、そのような表面の調製はプロセスが複雑で、形成できる基材も限られていました。

魚の鱗の表面は優れた撥油性・防汚性を示します。これは、魚の表面のナノ−マイクロメートルスケールの階層的な凹凸構造と表面の親水性で、常に表面の水をとらえ、その表面の水の存在により油/魚の表面の界面エネルギーを不安定化し、防汚性を示しているということです。

また近年、イガイなどの海洋生物の足糸に存在するある種のタンパク質が、貝が様々な基板に接着するために重要であることが明らかにされてきました。その中でもカテコールという官能基を含むDOPAというアミノ酸が重要な役割を果たしていることが報告されており、DOPAを含む高分子材料が水の中でも様々な基板に接着することが明らかにされています。そこで研究グループは、1)魚の表面の水中超撥油性を模倣した性質と、2)イガイの基材への水中接着性を組み合わせ、水中超撥油性表面を設計しました。

接着性のカテコール基を有するメタクリル酸メチル (MMA) と (DOPMAm)※6との共重合体poly(MMA-co-DOPMAm)をラジカル共重合7により調製した結果、この共重合体は様々な種類の基板に水中で強固に接着しました。カテコール基はアミンと強固な共有結合を形成するため、poly(MMA-co-DOPMAm)薄膜表面に様々な高分子を固定化することが可能です。そこで、poly(MMA-co-DOPMAm)薄膜に対して正電荷をもつポリエチレンイミン(PEI)と負電荷をもつポリアクリル酸(PAA)を交互積層法(LBL)で積層しました。水中での慣性半径が大きい高分子量PAAを用いることで、表面には数十〜数百ナノメートルの間隔で微細な凹凸が形成されることを原子間力顕微鏡8観察により確認しました。これは鱗の表面と同じような大きさです。

水中での超撥油性を水中で油適を表面に近づけたときの挙動から評価した結果、ヘキサデカンのような油の油滴は表面に付着せずに真球状を保ち、表面から速やかに離脱しました。この超撥油性表面の安定性は積層した高分子のアミド結合形成による架橋反応9によって向上し、水中で2週間放置しても表面の微細形態と超撥油性を保っていました。

■効果・今後の展開

本研究で得られた、基材を選ばずに様々な材料表面を水中で安定に超撥油化する手法は、自己清浄性表面、指紋付着防止、耐生物汚損、配管摩擦低減等に展開でき、洗剤を使わない表面の清浄化手法、スマートフォンの指紋付着防止、様々な配管の液体との摩擦低減等に利用できます。これらは様々な観点から二酸化炭素の削減やエネルギー有効利用に導くものであり、I2CNERのミッションと密接に関連しているものです。

【用語解説】

※1 カテコール:カテコールはフェノール類の一種で、ベンゼン環上のオルト位に2個のヒドロキシ(OH)基(カテコール基)を有する有機化合物であり、ポリフェノールに含まれる構造として知られる。

※2 L-3,4-dihydroxyphenylalanine(DOPA):L-ドーパは、カテコールアミンとして知られる神経伝達物質の前駆体であるが、イガイ接着タンパク質(mussel adhesive protein:MAP)にも含まれイガイが足糸を出して海中の岩などに張り付くときの接着剤の主要成分である。

※3 交互積層法:基板を正イオンをもつ高分子の溶液と負イオンをもつ高分子の溶液に交互に浸漬することにより、ナノレベルの厚みの薄膜を調製する方法である。

※4 ポリエチレンイミン:エチレンイミンを重合した水溶性ポリマーで、現存する素材中、最も陽イオン密度が高く、また、反応性に富んだポリマーのこと。

※5 ポリアクリル酸:アクリル酸の重合体で、食品添加物として使用される。

※6 N-(3,4-Dihydroxyphenethyl) methacrylamide (DOPMAm):アクリルアミドの側鎖にDOPAを導入したモノマーのこと。

※7 ラジカル共重合: 複数種の化学的性質の異なるモノマー(高分子の繰り返し構造単位)のラジカル反応により高分子が成長し、複数種の成分が含まれる高分子を生成する反応。

※8 原子間力顕微鏡:走査型プローブ顕微鏡(SPM)の一種であり、試料表面と探針の原子間にはたらく力を検出して顕微鏡像を得ることができる。 

※9 架橋反応:高分子鎖の間に橋を架けるような反応により複数の分子鎖間がつながる反応。架橋反応によって高分子は一般に溶媒に不溶となる。

■論文タイトル

Title:

Substrate-Independent Underwater Superoleophobic Surfaces Inspired by Fish-Skin and Mussel-Adhesives

DOI: 10.1002/admi.201300092

Article first published online: 11 Feb. 2014

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<報道記事>

◇ 日経バイオテクONLINE

◇ 財経新聞