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カーボンナノチューブと物質の相互作用が「熱力学」で解析可能に

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中嶋直敏教授I²CNER燃料電池研究部門主任研究者)、新留康郎准教授(I²CNER燃料電池研究部門)、加藤雄一(大学院工学府博士課程)、井上彩花(同修士課程)の研究論文が『Scientific Reports』に掲載されました。中嶋教授らは、21世紀の科学技術の鍵となる物質として期待されている新素材カーボンナノチューブ(CNT)と分子の相互作用が熱力学により定量的に評価できることを明らかにしました。

 

<論文タイトル>

Thermodynamics on Solubule Carbon Nanotubes: How Do DNA Molecules Replace Surfactants on Carbon Nanotubes?

 

<背景>

中嶋教授の研究グループは、CNTの溶媒への可溶化と機能化に関する研究を世界に先駆けて展開してきました。平成15年には、DNAがCNTを水中に可溶化することを発見しました。可溶化CNTは、化学材料、燃料電池、デバイス、バイオなど、多彩な分野に応用できます。可溶化は、DNAに限らず多くの物質で利用できますが、どのような物質が、CNTとどのように相互作用するかを知ることが重要です。しかし、これまでは定量的な評価法はありませんでした。研究グループは、その相互作用解析に、科学的な学問大系が確立している「熱力学」を初めて導入しました。首記の論文のタイトルは、”Thermodynamics on Soluble Carbon Nanotubes” (溶解カーボンナノチューブに対する熱力学)です。

 

<内容>

研究グループでは、コール酸ナトリウム(Na)(※2)がCNTに吸着し、CNTが水中に孤立分散している状態(図1左)をスタートの段階として設定しています。ここにオリゴDNA(dC20)(※3)を滴下すると、CNT表面で分子の交換反応が生じ、DNAが吸着した状態になります(図1右)。例えるなら、溶液中でコール酸NaとDNAとがCNT上で椅子取りゲームをし続けているような状態になります。(※4)どのくらいのDNA濃度のときに反応がどれだけ進むのかは、平衡定数を決定することによって知ることができます。これが相互作用の強さをあらわすパラメータです。さらに平衡定数の温度変化により、エントロピー(※5)およびエンタルピー(※6)を算出することができます。

本研究では、オリゴ-DNAをdC4, 5, 6, 7, 8, 10, 15と鎖長(長さ)を変えて実験、解析し、本手法がCNTと物質との相互作用解析の一般的な手法であることを示しています。また、CNTの直径と物質との相互作用の関係を明らかにしています。

例えば、DNAの鎖長の影響を見てみると、短くなるほど平衡定数は小さく、エントロピー変化量は正から負に、エンタルピー変化量は負から正に変化することが分かりました。これは、概ね次のように合理的に説明できます。鎖長が短い場合には、CNT上に吸着して押し込めることがエントロピーとして不利に働きます。ただし、それぞれの分子がフレキシブルであるために、より強く吸着できる形が取れて、それがエンタルピーとして有利に働く面もあります。トータルでは平衡定数は減少、すなわちCNTとの相互作用はDNAが短いほど弱まることになります。ただ、同一の分子骨格(シトシン)であるにも関わらず、鎖長が変化することにより駆動源が逆転するということは、CNT表面への吸着構造にdC7前後を境になにか大きな違いが生じている可能性があります。

CNTの直径の違いによる影響を見てみると、直径がおよそ0.2 nm大きくなることで、平衡定数が100倍程度も大きくなる場合があることが分かりました。直径の違いとエンタルピー変化量、エントロピー変化量の関係は非常に複雑です。このことは、DNAがCNTのたった数ナノの直径の違いをきちんと認識しているというとても興味深い結果と言えます。

 

本研究は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」研究領域における研究課題「溶解カーボンナノチューブ高機能ナノシステムデザイン」(研究代表者:中嶋直敏)の一環として行われました。

 

<効果・今後の展開>

本研究は、CNTと物質との相互作用に対して「熱力学」が利用できることを示したものです。この手法の適用により、様々な物質に対して、CNTと物質との相互作用について定量的な評価ができるようになります。そして、物質の構造や分子の大きさと体系づけて議論できるようになります。これらは、CNT科学とテクノロジーの基盤研究として位置づけられ、ナノメートルの世界での相互作用という学問的探求が進展することが期待できます。

 

<用語解説(※注)>

(※1)カーボンナノチューブ(CNT):炭素原子が筒状に化学結合して形つくられている物質。

(※2)コール酸Na:生体内では胆のうから分泌され、脂肪の消化吸収に働く界面活性剤コール酸のNa塩。CNTを水中に孤立分散させる働きがある。

(※3)オリゴDNA(dC20):分子量が数千以下のDNA。(dC)20は、シトシンが20個繋がったDNAである。

(※4)椅子取りゲームで、笛が鳴った後に押しくらまんじゅうを続けている状態。この状態を「平衡」と言う。

(※5)エントロピー:系の乱雑さのパラメータ。平衡定数の温度に依存する項から求まる。主に分子のフレキシブルさや大きさと関係する。

(※6)エンタルピー:反応に伴う系の熱量変化を表すパラメータ。平衡定数の温度に依存しない項から求まる。

 

プレスリリース

図1:CNT表面でのSCからDNAへの置換の模式図