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2014.04.28

南海トラフに発達する巨大分岐断層の間隙水圧の推定に成功~新たに明らかとなった津波断層の構造と特徴~

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)CO2貯留研究部門長・主任研究者の辻健准教授の研究グループは、「Earth and Planetary Science Letters」のオンライン版に研究成果を発表しました。

 

■概要

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)の辻健准教授とウェスタンオンタリオ大学(カナダ)の研究グループは、波形トモグラフィ1とよばれる解析を地震探査データに適用することで、南海トラフ巨大分岐断層の弾性波速度を高い解像度で推定しました。さらに、その弾性波速度から断層活動度の指標となる「間隙水圧」の分布を、初めて連続的に推定することに成功しました。その結果、巨大分岐断層では、間隙水圧が非常に高く地震を引き起こしやすい状態であることが分かりました。また、これまで分岐断層は南海トラフ軸から約30km陸側で海底面へ分岐し、津波を発生させると考えられてきましたが、今回の結果から分岐断層は南海トラフ軸周辺まで連続的に伸びていることが明らかとなりました。地震時に滑りがトラフ軸周辺まで伝播すると、津波発生域が広くなります。この成果は、発生する津波の大きさの予測や、断層挙動の解明に貢献すると考えられます。

本研究成果は、2014425日(米国時間)にElsevier社の国際学術誌『Earth and Planetary Science Letters』のオンライン版で公開されました。

  

■背景

断層の亀裂に存在している水の圧力である間隙水圧が増加すると断層を押し広げるため、断層の摩擦が小さくなり、地震が発生しやすくなります。そのため、間隙水圧の分布は断層の活動度を評価する上で最も重要な情報です。2011年の東北地方太平洋沖地震でも、間隙水圧の上昇が巨大滑りの原因の一つと考えられています。 

間隙水圧の分布は、弾性波速度(波が伝わる速さ)から推定することができます。しかし、様々な技術的制約から、南海トラフで津波を発生させると考えられている巨大分岐断層周辺の弾性波速度は正確には求められていませんでした。そのため巨大分岐断層周辺の間隙水圧の状態は良く分かっておらず、分岐断層とその海側に発達する断層群との関係も解明されていませんでした(図1上図)。

今回の研究では、新たに開発した地震探査データの解析手法を用いることで、1944年東南海地震の震源周辺に発達する分岐断層周辺の間隙水圧分布を推定することに成功しました。その結果、巨大分岐断層が、これまで考えられていた構造と異なることが解明されました。

 

 

■内容

 

紀伊半島沖南海トラフで取得された地震探査データに対して、波形トモグラフィという解析手法を適用することによって、地震断層周辺(深さ12kmくらいまで)の弾性波速度を高解像度に推定することに成功しました(図2b))。さらに弾性波速度や掘削データなどの情報を使って、地震断層周辺の間隙水圧を、初めて連続的にマッピングすることに成功しました(図2c))。

本研究で得られた結果から、巨大分岐断層の間隙水圧は岩石を破壊するほど高く、地震を引き起こしやすい状態であることが分かりました(図2c))。また、その高い間隙水圧で特徴づけられる巨大分岐断層は、これまで考えられていた場所よりも海側へ延びていることが分かりました。

これまでの解釈では、分岐断層は南海トラフから約30km陸側で海底面へ分岐すると考えられていました(図1上図)が、今回の解析結果から、巨大分岐断層は深部震源域から南海トラフ周辺まで連続的に存在していることが分かりました(図1下図)。巨大分岐断層は、トラフ軸へ続くプレート境界断層であり、そのプレート境界断層から、いくつかの断層が派生(分岐)しているという新しい断層像が明らかとなりました。

 

■効果

今回の研究で、巨大分岐断層の構造がこれまでの解釈から変わったことにより津波発生域の評価が変わってくることが考えられます。間隙水圧の高い断層が海側へ延びたことで、津波の発生域は広くなる可能性があります(図1)。一方で、これまではトラフ軸から30kmくらい離れた場所に発達する急傾斜の分岐断層が津波を引き起こすと考えていましたが、その断層は大きく動かない可能性があることが分かってきました。

さらに今回の研究で、間隙水圧を高い解像度で推定する手法を確立することができました。この手法を応用することで、断層のモニタリングも可能になると考えられます。地震前には、地殻内部の間隙水圧は変化すると考えられるため、本手法は地震の予測に貢献できる可能性があります。

 

 

■今後の展開

 

今回の研究で得られた間隙水圧分布から、活動的な断層システムが明らかになってきました。今後は本研究で得られた間隙水圧分布を地震発生モデルに取り入れ、地震時の断層挙動や津波発生過程を定量的に調べる予定です。それにより、防災対策へ貢献したいと考えています。

 

カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所CO2貯留研究部門では、大気中の二酸化炭素削減を目的として、二酸化炭素を地下貯留(CCS)するための革新的な技術の開発を行っています。今回の研究で開発した解析技術

は、貯留に適した構造かどうかを広範囲に探査できる技術につながるものであり、二酸化炭素を圧入する前に地下の状態を知る上で重要です。今後、更に効果的な解析手法の開発を行い、精度良く地盤の状態を把握する研究を進めていきたいと考えています。

 

 

 

 

【用語解説】

※1 波形トモグラフィ弾性波速度を推定する際、一般的に発振点から受振点まで弾性波が伝わるのに要する時間(走時)の情報を用いる。しかし波形トモグラフィでは、走時に加えて「波形」の情報を用いるため、高精度に弾性波速度を推定することが可能となる。

  

■論文タイトル

Title:

Pore pressure distribution of a mega-splay fault system in the Nankai Trough subduction zone: Insight into up-dip extent of the seismogenic zone

DOI: 10.1016/j.epsl.2014.04.011

Publication Date(online): April 25, 2014

 

<報道記事>

◇ 西日本新聞(4月29日朝刊)

◇ サイエンスポータル

◇ 財経新聞

◇  読売新聞(5月26日朝刊)

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