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固体高分子燃料電池の飛躍的な超高耐久性実現―「不死身化」に向けて―

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■概要

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)/工学研究院の中嶋直敏教授、藤ヶ谷剛彦准教授、I2CNERのMohamed R. Berber博士研究員らの研究グループは、低温加湿下で発電する固体高分子形と呼ばれる燃料電池(※1)において、触媒となる材料と作製法を工夫することで飛躍的に耐久性を向上させることに成功しました。

燃料電池はエネルギー効率が高いことから自動車や家庭用の発電機として導入が進んでおり、燃料電池を含めた用途開発との相乗効果で大幅なコスト低減が期待されます。

本研究成果は、2015年11月23日(月)午前10時(英国時間)に英科学誌Nature 姉妹誌のオンラインジャーナル『Scientific Reports』で公開されました。

 

■背景

持続可能な社会構築を目指し、水素をエネルギーとする水素社会インフラの整備が進められています。その中心となる電源として、水素を用いて発電する燃料電池の普及が進められています。現在、燃料電池は自動車や家庭用として市販されていますが、さらなるコストの削減、効率や耐久性の向上を目指し世界中で研究が進められています。燃料電池は発電に関わる化学反応を促進させるために、白金系のナノ粒子を触媒として導電性の粉体に担持(※2)して用いています。これを電極触媒と呼んでいますが、この電極触媒がコスト、効率、耐久性を大きく左右するために、研究開発の中心となっています(図1)。現在、導電性の粉体としてカーボンブラックと呼ばれる炭素材料が使われています。カーボンブラックに白金ナノ粒子を担持した複合体に、水素イオンを伝達する樹脂が混合しているのが通常の電極触媒ですが、燃料電池のさらなる性能向上を目指して電極触媒の改良が日々行われています。研究グループでは、これまでに炭素材料表面に吸着しやすい樹脂を発見し、この樹脂を「のり」として白金ナノ粒子を担持する技術を発明しました。この技術により、これまで白金ナノ粒子の担持が困難であった炭素材料表面にも担持できるようになりました。

 

図1.電極触媒開発の重要性

 

■内容

研究グループでは、独自の白金ナノ粒子担持技術の利点を生かし、優れた伝導性や耐久性を持ちつつも白金ナノ粒子の担持が困難であったカーボンナノチューブ(CNT)(※3)に、白金ナノ粒子を均一粒径かつ高分散で担持することに成功しています。本技術は、ポリベンズイミダゾールと呼ばれる樹脂をナノ厚みで「のり」として利用することが特長です(図2)。加速度試験(※4)の結果、市販の触媒を用いた場合(図3、黒線)では起電力(※5)が5000サイクル程度で半減するのに対し、驚くべきことに、CNTを担持体として用いた結果、60万サイクル後でもほとんど起電力の減少が見られない(図3、赤線)ことが明らかとなりました。これまでにも、研究グループではCNTを用い、同様の手法で作製した電極触媒を用いて、次世代発電条件と期待される高温(120℃)無加湿条件下で、市販の電極触媒よりも100倍以上の耐久性を実現しています(2013年4月30日付けプレスリリース「固体高分子形燃料電池の超高耐久化に成功」参照)。その成果においては、水素イオンを伝達する樹脂として、特殊な材料を用いましたが、今回の研究成果においては、商用化されている燃料電池にも用いられているNafionと呼ばれる樹脂を用いて、80℃加湿条件という一般的な条件で実験を行っています。従って、今回の成果は、より現行材料に近い成果と言えます。研究グループの電極作製手法は、現行の材料系でも次世代系でも優れた耐久性を引き出せる画期的な手法と言えます。

 

図2.独自の電極触媒作製法

 

図3.耐久性テストの結果

 

■効果

現在、固体高分子形燃料電池の普及のため、低コスト化、高活性化、高耐久化の研究が盛んに行われていますが、材料や作製法を大きく変更するには、製造プロセスの再検討が必要となり、膨大な時間を要してしまいます。そこで、現行材料や製造手法を使いつつ、性能を向上させることが望まれています。今回の研究成果においては、水素イオンを伝達する樹脂も現行の材料であり、白金ナノ粒子担持手法もこれまでと同様であるという利点があります。耐久性が向上することで、燃料電池を買い替える負担が軽減されるため、実質的な低コスト化とも言えます。

 

■今後の展開

本研究成果による作製手法は、高耐久化だけでなく、低白金化にも有効であることがすでに示されているために(2014年9月3日付けプレスリリース「固体高分子形燃料電池の白金使用量削減に成功」参照)、大幅な低コスト化が可能な技術です。また、高活性化にも貢献できる可能性が大きいことから、実用化に向けてセル規模を大きくして検証を進めています。現時点においてCNTはカーボンブラックと比較し高価なため、更なるコスト削減が望まれています。現在、プラントレベルの製造が開始されており、燃料電池を含めた用途開発との相乗効果で大幅なコスト低減が見込めます。従って、本研究成果による電極触媒も低コスト化が十分に期待されます。今後、実用化に向けて有望な条件が整いつつとあるといえます。

 

■本研究について

本研究は、NEDO エネルギー・環境新技術先導プログラム:「ナノカーボンハイブリッドを素材とした低コスト超高耐久性次世代燃料電池の実現」(研究開発代表者:中嶋直敏)、および国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)技術領域「蓄電デバイス」(運営総括:逢坂哲彌)における研究開発課題「ナノ積層法による燃料電池・水電解セル開発」(研究開発代表者:藤ヶ谷剛彦)の研究成果です。

 

【用語解説】

(※1)固体高分子形燃料電池:

水素と酸素が反応し水を生成する反応を利用して発電するクリーンな発電システム。その中で、固体高分子膜(イオン交換膜)を電解質として利用する燃料電池。

 

(※2)担持:

固体表面上に物質を吸着させること。ここでは炭素粉体上に金属ナノ粒子を固定化すること。

 

(※3)カーボンナノチューブ (CNT):

炭素の六員環ネットワーク(グラフェンシート) を円筒状に丸めた構造を有する物質。直径が1 nm から50 nm (1 nm は10 億分の1 m) 程度と非常に細く、その内部にも1 次元のナノ空間を有する非常にユニークな物質である。

 

(※4)加速度試験:

寿命をテストするための模擬試験。燃料電池劣化の原因となる酸化条件を意図的に繰り返し与える試験。

 

(※5)起電力:

電流を生じさせる電位の差。回路に電流を流す原動力である。

 

■論文

題目:A highly durable fuel cell electrocatalyst based on doublepolymer-coated carbon nanotubes

著者:Mohamed R. Berber, Inas H. Hafez, Tsuyohiko Fujigaya, & Naotoshi Nakashima

雑誌名:Scientific Reports

DOI:10.1038/srep16711