九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)ならびに米国サンディア国立研究所のBrian. P. Somerday博士らの研究グループは、2013年7月31日にElsevier社のオンラインジャーナル『Acta Materialia』に研究成果を発表しました。
■ 概要
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)/米国サンディア国立研究所のBrian. P. Somerday博士らの研究グループは、水素ガスに微量の酸素を添加することにより、水素を原因とする疲労の加速を抑制できることを発見しました。さらに、酸素添加により水素の影響が軽減されることを表す定式を完成させるという重要な成果を得ました。本成果により、水素の製造・貯蔵・輸送など広い範囲で利用が望まれている鉄鋼材料について、水素による急速なき裂の成長の加速を抑えて、安全に水素を利用する技術の開発が見込まれ、研究所の目標である水素社会への移行に必要となる要素技術の確立に向けて重要な基盤になります。
この成果は、2013年7月31日にElsevier社のオンラインジャーナル『Acta Materialia』で公開されました。
■ 背 景
水素社会への移行を実現するに当たり、水素の製造、移送、貯蔵、エネルギーの取り出しなどの要素技術の開発において、多くの課題に直面しています。それらの一つが水素脆化であり、水素がないところでは安全に機器を使うことができた荷重でも、材料が水素に接触すると、予期しない破壊が引き起こされることがあります。水素を利用する機器の安全性を低コストで達成することは、今後の水素の普及にとってとても重要な課題です。このように、水素は金属疲労(※1)の進行を早める作用があり、水素の影響は低い圧力でも大きなものですが、その原因は十分に解明されていないのが現状です。水素機器の寿命評価、水素の影響を軽減する方法の開発、また、水素中で長期間安心して使用できる高度な材料の設計はI2CNERの主要な目的の一つに掲げられています。本研究の成果は、水素適合材料部門のロードマップにおける短期的な目標に掲げた、水素による材料の損傷を評価するメカニズムや影響因子の解明に関する成果であり、水素機器の寿命評価や水素の影響を軽減する方法の提案に向けて大きな一歩になります。
■ 内 容
数百万個の水素分子に対して数個の酸素分子が完全に水素による悪影響を取り除くことを、カリフォルニア、ゲッティンゲン(ドイツ)、イリノイの研究者の集うI2CNERの国際的なチームが発見しました。この発見は、材料科学、材料物理学、応用力学を基礎とした実験的手法と解析的手法の融合により達成されました。水素ガスの中で水素脆化が起こるためには、水素ガスがき裂先端に移動して、水素ガスが表面に吸着し、水素原子に分かれて、材料中に拡散していくという一連の過程が必要です。つまり、水素ガスが材料表面に接触しなければ、水素脆化は起こりません。本研究の発見「酸素が水素の悪影響を軽減する効果」はこの点に着目しています。酸素がき裂の表面に水素よりも優先的に吸着して、水素が材料に侵入することを防止するために、水素によるき裂の成長の加速が防止されます。
■効 果
この研究の最も重要な成果は、水素の悪影響を緩和するために必要な酸素量を表す、簡単な定式を開発したことです。定式では水素圧力、疲労の荷重が繰り返される速さ、荷重の大きさ、材料強度など、複雑な疲労き裂の成長という現象に関係するすべての原因が考慮されています。実際に、エンジニアが、疲労の進行を早めるという水素の悪影響を表す定式を手にするのは、これが初めてのことです。この理論的な説明に基づいて、水素ガスの疲労に対する悪影響が防止される技術が開発されることが期待されます。
■今後の展開
酸素に加えて、一酸化炭素などの微量な他の物質がどのようにき裂の成長に影響を与えるのか解明します。さらに、それらの物質が水素の悪影響を軽減するのかどうか解明します。また、水素中で長期間安心して使用できる高度な材料の設計法についても検討していきます。
プレスリリースの詳細
■掲載論文
題目:Elucidating the variables affecting accelerated fatigue crack growth of steels in
hydrogen gas with low oxygen concentrations
著者:B.P. Somerday, P. Sofronis, K.A. Nibur, C. San Marchi, R. Kirhheim
誌名:Acta Materialia
DOI: 10.1016/j.actamat.2013.07.001 
※上図中、ppmとは100万分の一を表す単位である。例えば「酸素100ppm」は、水素分子100万個に対して酸素分子100個を意味し、「酸素1000ppm」は、水素分子 100万個に対して酸素分子1000個を意味する。
【用語解説】
※1金属疲労
金属に繰り返し荷重が加えられた時にき裂が成長していく材料の劣化現象です。水素ガス中で
は、 このき裂の成長はますます速くなりますが、理由は未だ十分理解されていません。
※2応力拡大係数範囲
疲労による破壊はき裂が伸びると起こるので、き裂が伸びるのか伸びないのか、どのくらいの速
度で伸びるのか、というようなき裂の評価が重要です。その評価の時に使う力学的な物差しが応
力拡大係数です。応力拡大係数は破壊力学という学問により導き出されています。例えば、小さ
なき裂のある材料に大きな荷重がかかっている場合と、大きなき裂のある材料に小さな荷重が
かかっている場合を比べて、どちらのき裂の伸びる速度が速いのか知りたい、というような時に
使います。き裂が大きくても小さくても、荷重が大きくても小さくても、応力拡大係数が同じであれ
ば、それらのき裂は同じように成長します。