2015年1月22日、九州大学大学院工学研究院応用化学部門教授及び九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)燃料電池研究部門主任研究者である中嶋直敏教授、藤ヶ谷剛彦准教授らの研究グループは英国科学誌Nature姉妹紙のオンラインジャーナル『Scientific Reports』に研究成果を発表しました。
■概要
私たちが生活するなかで生じる膨大な熱エネルギーを利用するため、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換材料の開発研究が注目されています。九州大学大学院工学研究院/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)の福丸貴弘特任助教、藤ヶ谷剛彦准教授、中嶋直敏教授の研究グループは、カーボンナノチューブ(CNT)(※1)の内部空間にコバルトセン(※2)と呼ばれる分子を内包させることにより、これまで作製困難であった高性能なn型熱電変換材料(電荷を運ぶ担い手が電子という性質を持つ、熱を電気に変える材料)の開発に初めて成功しました。作製した材料は軽くて柔軟性のあるシート状であることから任意形状の熱源に貼るだけで発電できるシートの開発が可能になり、エネルギーを無駄なく使う社会の実現に貢献します。
■背景
私たちが利用する電気エネルギーは主に化石燃料を用いて生産されていますが、化石燃料エネルギーのすべてを活用できているわけではなく、多くのエネルギーは熱として捨てられているのが現状です。また、身の回りにも利用されていない熱源が多く存在しています。これらの熱エネルギーを電気エネルギーとして利用・再利用することができれば、省エネルギー社会の実現に繋がると期待され、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する熱電変換材料の開発が世界中で進行しています。
これまでに実用化されている熱電変換材料は無機材料(※3)でできたものが一般的ですが、希少金属を使用するため、高価、重い、脆いといった点からごく一部の用途に限られているのが現状です。そのため、身の回りに存在する多様な熱源から熱エネルギーを回収するために、安価かつ軽くて柔軟性もある有機材料(※4)でできた熱電変換材料の開発に注目が集まっています。しかし、無機材料と比較して、有機材料は熱電変換性能(熱を電気に変える効率)が低く、更なる性能の向上が求められています。また、高性能な熱電変換デバイスを構成するためにはp型 (電荷を運ぶ担い手が正孔) とn型 (電荷を運ぶ担い手が電子) の異なる熱電変換材料が必要ですが、n型の熱電変換材料開発はp型の熱電変換材料と比べて遅れているのが現状です。
■内容
有機熱電変換材料の高性能化を目指し、優れた電気伝導率を有するカーボンナノチューブ (CNT) が注目されています。しかし、CNTはp型の熱電変換特性を示すため、オールCNTの高性能な熱電変換デバイスを構成するためにはp型からn型へと物性を変換する必要があります。多くの研究ではp型からn型へと物性を変換する分子 (ドーパント) とCNTを混合することでCNTの物性を制御しています。しかし、この方法ではドーパントが容易にCNT表面から脱着して安定な物性を得ることが難しいと考えられています。
研究グループでは、ドーパントをCNT内部のナノ空間に収納することで、優れた熱電変換性能を有するフレキシブルCNTシートを開発しました(図1(A))。ドーパントにあたるコバルトセンをCNT内部に収納すると、電荷移動相互作用(※5)により、CNTシートにおいて電荷の運び手が正孔から電子へと変化し、n型の熱電変換物性を示しました。さらに、CNTシートの電気伝導率の向上も見られ、高い熱電変換性能を示しました。コバルトセン内包CNTシートの熱電性能指数は約0.16であり、これまでに報告されているn 型の有機熱電変換材料中で高い値を示しました。また、得られたCNT シートは柔軟性があり、何度も曲げることが可能です(図1 (B))。これは元々柔軟性のあるCNT がしっかり絡まりあっているためだと考えられます(図1(C))。
また、p 型の熱電変換材料として内包処理をしていないCNT シート、n 型の熱電変換材料としてコバルトセン内包CNT シートから構成されるオールCNT 熱電変換デバイスを作製し、起電力(※6)を取り出すことにも成功しました。

図1.
(A) CNT およびコバルトセン内包CNT の模式図。CNT はp 型の熱電変換物性を示し、コバル
トセン内包CNT はn 型の熱電変換物性を示す。CNT 内部空間のコバルトセンは有機溶媒で洗
浄しても保持され、高い安定性を示す。
(B) コバルトセン内包CNT シートの写真。フレキシブルで曲げることが可能である。
(C) コバルトセン内包CNT シート表面の走査型電子顕微鏡像。コバルトセン内包CNT が複雑に
絡まり合った構造をしている。
■効果・今後の展開
本研究では、CNT の内部空間に分子を内包することによるCNT の物性制御及び分子内包CNT シートからなる熱電変換材料を開発し、高性能フレキシブル有機熱電変換材料を得るための一つの有力な手法を初めて示しました。有機熱電変換材料の実用化にはその低い熱電変換性能と安定性が障害となっています。特に、実用化のためには熱電変換性能が1.0 以上という高い数値が必要といわれています。しかし同時に、熱電変換性能及び安定性を向上させることで、軽量・フレキシブルといった特徴を有する有機熱電変換材料の実用化の可能性が高まります。
今後は有機熱電変換材料の熱電変換性能及び安定性の更なる向上を指向した研究を進め、CNT のエネルギー分野への更なる基礎及び応用研究を行っていきます。
■用語解説
(※1)カーボンナノチューブ (CNT) :
炭素の六員環ネットワーク (グラフェンシート) を円筒状に丸めた構造を有する物質。直径が1 nm
から50 nm (1 nm は10 億分の1 m) 程度と非常に細く、その内部にも1 次元のナノ空間を有する非常にユニークな物質である。
(※2)コバルトセン:
コバルト原子が有機化合物 (シクロペンタジエニル配位子) に挟まれたサンドイッチ構造を有する有機金属化合物で、昇華 (固体から気体へと相転移) しやすく、還元剤 (他の物質に電子を受け渡す分子)として用いられる。
(※3)無機材料:
炭素以外の元素で構成される化合物 (無機化合物) からなる材料。
(※4)有機材料:
炭素を含む化合物 (有機化合物) からなる材料。
(※5)電荷移動相互作用:
電子を受け取りやすい分子 (電子受容性分子) と電子を与えやすい分子 (電子供与性分子) の間で電荷の移動が生じることにより働く相互作用。
(※6)起電力:
電流を生じさせる電位の差。回路に電流を流す原動力である。
■論文
Title: Development of n-type cobaltocene-encapsulated carbon nanotubes with remarkable thermoelectric property
Authors: Takahiro Fukumaru, Tsuyohiko Fujigaya & Naotoshi Nakashima
DOI: 10.1038/srep07951