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2014.10.27

燃料電池用空気極触媒の表面構造の解明に初めて成功

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)の石原達己教授水素製造研究部門長らの研究グループは『Energy and Environmental Science』のオンライン版に掲載され、同誌11月1日発行の表紙で紹介されます。

 

■概要

 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)のJohn Druce学術研究員、Helena Tellez学術研究員、I2CNER/大学院工学研究院の伊田進太郎 准教授、石原達己 主幹教授らの研究グループは、固体酸化物燃料電池(SOFC)の空気極として広く使用されているペロブスカイト型空気極触媒(※1)の表面及びサブ表面(※2)の組成変化の解析に成功しました。SOFCは高効率な発電装置として、低炭素社会創出への寄与が期待されています。空気極は酸素の解離を促進する役割を担っていますが、硫黄等で劣化しやすいことが課題です。今回、研究グループは、空気極の硫黄等による劣化が、空気極表面にストロンチウム(Sr)が極めて容易に濃縮されるために起こることを明らかにしました。

 本研究成果は、英国王立科学協会の学術雑誌『Energy and Environmental Science』(インパクトファクター=15.5)に掲載され、同誌2014年11月1日発行の表紙で紹介されます。

 

■背景

 燃料電池は高効率な発電方式として、普及が期待されています。燃料電池の中でも電解質に酸素イオン伝導体を用いたタイプはSOFCと呼ばれ、特に発電効率が高いため、低炭素社会実現に向けてその普及が期待されています。現状の課題は、長期的な発電特性の低下を抑制することです。発電特性が低下するメカニズムについては種々の検討が行われていますが、特に空気中のにおい成分由来の硫黄やCO2、構成材料由来の塩素、クロミウム、ホウ素による空気極触媒の劣化が指摘されています。これまで、このような空気極触媒が硫黄等の不純物により劣化するメカニズムについては、十分解明されていませんでした。

 

■内容

  研究グループは、九州大学次世代燃料電池産学連携研究センター及びI2CNERが保有する低エネルギーイオン散乱分光測定装置(※3)と飛行時間分解型2次イオン質量分析装置(※4)を用いて空気極材料の表面の測定を行い、世界で初めて、空気極触媒に用いられるペロブスカイト型酸化物(ABO3)(※5)の表面が、イオンサイズの大きいAサイトイオンが露出しやすく、また高温においては、表面の組成が使用中に変化し、反応性の高い添加物のSrが容易に濃縮してしまうことを明らかにしました。表面にSrが濃縮すると、空気中の不純物の硫黄等と容易に反応しやすく、これが燃料電池の劣化挙動と関係するものと推定されます。本研究ではさらに、表面にSrが析出(※6)した後の、表面から数原子の領域での組成の変化を測定し、サブ表面ではイオンサイズの小さいBサイトイオンの濃度が高くなっていることを明らかにしました。つまり、空気極触媒の表面とサブ表面は図1に示すように、組成の逆転を生じ、イオンサイズの大きいイオンほど、表面に集まる傾向があることを見出しました。

 

■効果・今後の展開

 空気極触媒が微量の不純物と反応しやすく失活しやすい理由として、表面の組成の変動が密接に関係することが分かりました。これは、表面へのSrの濃縮を抑制することが可能になれば、空気極の耐不純物性を大きく向上できることにつながる成果であり、目標である10万時間(10年)の駆動を達成するため、SOFCの耐久性の向上につながる成果として期待できます。また、表面への濃縮現象に対応して、今回、新たにサブ表面ではBサイトイオンが濃縮した領域があることが分かり、このサブ表面の組成の変動についても今回初めて明らかになったものです。この領域の設計は、空気極の安定性と活性の向上に有効と考えられます。一方で、現在までに知られているペロブスカイト型の空気極触媒が、いずれも表面に酸素解離活性の低いSrが濃縮した状態であるならば、これらの表面層が濃縮しない材料設計を行うことができれば、酸素解離活性を向上することが可能となり、出力の向上や作動温度の低温化が期待できます。

 また、今回の研究成果を受けて、ペロブスカイト型空気極触媒の表面への酸素の解離反応に活性の低いSr等の濃縮を抑制できると、活性や耐久性の向上が期待できることから、材料の添加物や使用条件を検討することで、長期にわたり安定に作動可能な空気極触媒を開発でき、ひいては発電効率に優れるSOFCを長期的・安定的に作動させることにつながると期待されます。

 

<本研究について>

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金基盤研究(S)(24226016)「ナノヘテロ界面制御に立脚する超酸素イオン伝導体の創出と革新的燃料電池」の研究成果です。

 

【用語解説】

1)ペロブスカイト型空気極触媒

酸素イオン伝導体中では酸素イオン(O2-)が移動するので、気相中の酸素分子(O2)を酸素イオンまで解離させる必要がある。そこで、酸素分子をイオンへ解離させる触媒を空気側に取り付け、その触媒電極を空気極と呼ぶ。空気極上では気相酸素分子が吸着し、電子を受け取って酸素イオンになる反応場のこと。ペロブスカイト型空気極触媒は、ペロブスカイト型酸化物(※5)を空気極電極触媒に用いた電極のこと。

 

2)サブ表面

表面1原子層の下の部分を指し、表面から5から10原子層の厚さの領域のこと。

 

3)低エネルギーイオン散乱分光測定装置

 表面最外層の分析を目的に開発された装置で、ヘリウム等の軽元素のイオンを試料表面に散乱し、散乱されたイオンのエネルギー値を分析することで、散乱した表面のイオンの種類を分析することができる。軽元素の散乱は表面からのみ生じることから、表面第1層の元素に関する情報を得ることができる新しい分析手法である。

一方、スパッタ装置と組み合わせることで、表面から1原子層を除去すれば、表面直下のサブ表面の組成の分析が可能となる。スパッタ装置とは、高電圧をかけてイオン化させた希ガス元素(普通はアルゴンを用いる)や窒素(普通は空気由来)を衝突させる装置のこと。この装置を用いると、ターゲット表面の原子がはじき飛ばされ、表面から原子層のレベルで原子の層をはぎ取ることができる。

 

4)飛行時間分解型2次イオン質量分析装置

加速させた荷電粒子(イオンまたは電子)の飛行時間を計測することにより、対象の質量を測定する分析計を搭載した2次イオン分析装置。固体試料上の原子、分子の化学情報を一分子層以下の感度で測定でき、また特定の分子や原子の分布を100nm以下の空間分解能で観察できる装置で、低エネルギーイオン散乱分光測定装置より、やや深い表面層の情報が得られる。

 

5)ペロブスカイト型酸化物

 ABO3で表わされる複合酸化物で、イオンサイズの大きいAサイトイオンとイオンサイズの小さいBサイトイオンの2つのイオンで格子が形成される、図2に示すような構造の酸化物。優れた安定性を有しており、AサイトやBサイトの一部を別の金属カチオン(金属の陽イオン)で置換することが可能であり、多くの組成の多様性を有する。

 多様な物性を有しており、特にAサイトにランタン、Bサイトに鉄やコバルトを用いるペロブスカイトは、SOFCの空気極触媒として広く使用されている。優れた酸素分子の酸素イオンへの解離活性を有するが、長期的に活性を維持することが重要な課題となっている。

  図2 ペロブスカイト型酸化物の構造

 

6)析出

 ある物質の溶液から固体が現れること。

 

 

 

■論文

Title: Surface termination and subsurface restructuring of perovskite-based solid oxide electrode materials

Authors: J. Druce, H. T´ellez, M. Burriel, M.D. Sharp, L.J. Fawcett, S.N. Cook, D. S. McPhail, T. Ishihara, H. H. Brongersma and J. A. Kilner

 

DOI: 10.1039/c4ee01497a

 

■掲載記事

財経新聞(10月26日)

環境展望台(10月24日)

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