双性イオン高分子薄膜の水溶液界面における水和状態と分子構造因子の関係
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九州大学 先導物質化学研究所/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)の高原 淳教授と檜垣 勇次 助教らの研究グループは、高輝度光科学研究センター(JASRI)の池本 夕佳 博士、森脇 太郎 博士、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の山田 悟史 助教らとの共同研究で、次世代高性能医療用材料として期待される双性イオン高分子※1の水溶液中でのナノ構造を解明しました。
プラスの電荷とマイナスの電荷の両方を持つ双性イオン高分子は、生体分子の構造を模倣していることから高い生体適合性を有することが知られていますが、実は生体適合性が発現されるメカニズムは未解明でした。本研究グループは、SPring-8※2の高輝度放射光※3を利用した赤外分光測定※4と、J-PARC MLF※5における中性子反射率測定※6による最先端の量子ビーム※7解析技術を用いました。その結果、高分子中のプラス電荷とマイナス電荷の距離に応じて共存イオンに対する応答性が変化し、異なる膨潤※8挙動を示すことが明らかになりました。
この知見を用いることで、生体内の環境に合わせて適度な膨潤構造を持つような材料設計が可能になると期待できます。本研究成果は、抗血栓性カテーテルなどの高性能医療用高分子材料の開発によるライフサイエンス分野の発展に役立つだけでなく、水和双性イオン高分子の潤滑特性を利用した摩擦低減によるエネルギー効率の向上にも結びつくものであると期待されます。
本研究成果は、2017年8月17日に米国化学会(ACS)の国際学術誌「Langmuir」に、ACS Editor’s Choice論文として掲載され (DOI: 10.1021/acs.langmuir.7b01935)、8月21日に米国科学振興協会(AAAS)が運営するオンラインニュースサービス「EurekAlert!」にてプレスリリースされました。
本研究は、文部科学省 光・量子融合連携研究開発プログラムによる助成を受け、JASRI及びKEKとの共同研究として実施されました。
■ 用語解説
※1 双性イオン高分子:
同一分子内に正電荷と負電荷の両方が存在する双性イオン基を含む、分子量が大きい分子
※2 SPring-8 (Super Photon ring-8 GeV):
兵庫県 播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設。ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
※3 放射光:
相対論的な荷電粒子(電子や陽電子)が磁場で曲げられるとき、その進行方向に放射される非常に強い電磁波
※4 赤外分光測定:
物質に赤外光を照射し、透過または反射した光を測定することで、試料の構造解析や定量を行う分析手法。今回の研究では、水和水の水素結合ネットワーク構造の解析に利用した。
※5 J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex,大強度陽子加速器施設):
高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。J-PARC内の物質・生命科学実験施設では、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっている。
※6 中性子反射率測定:
試料表面で反射される中性子(原子核を構成する中性の粒子)が干渉する様子を調べることによって、深さ方向に対して数ナノメートル~数百ナノメートル程度のスケールで膜の厚さ・界面の粗さ・密度の分布を測定する分析手法
※7 量子ビーム:
研究用原子炉、加速器、高出力レーザー装置等の施設・設備を用いて得られる、高強度・高品位の中性子ビーム、イオンビーム、高強度レーザー、放射光等を総称したもの
※8 膨潤:物質が溶媒を吸収して体積を増加する現象
■ 研究者からひとこと
九州大学・JASRI・KEKの共同研究チームが連携することで、世界初の研究成果を創出することができました!