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NEXT-RPとは(メッセージ)

NEXT-RPとは

九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 附属次世代冷媒物性評価研究センタートップ > NEXT-RPとは(メッセージ)

メッセージ

ようこそNEXT-RPへ。

NEXT-RPは、2016年4月にI²CNERの中に次世代冷媒物性評価研究センターの正式名称で設立されました。当初この部屋には、何もない状態からのスタートでしたが、約4年経過して、一通りの設備を揃えることができました。ここは、将来の利用される冷媒の、熱物性評価、伝熱特性評価、サイクルシステム評価を行う研究機関です。ただ、すべての仕事を九州大学一箇所で行うのではなく、日本国内、世界各国の研究機関と連携して、タイムリーに解決できるように進めています。特にこの研究室では、最も基礎となる熱物性計測を行っているところです。
では、少し具体的に、次世代冷媒について説明していきましょう。1930年代、 フロンガスと呼ばれるCFC冷媒やHCFC冷媒が登場し、冷凍機や空調機に革命が起こりました。冷蔵庫、エアコン、ヒートポンプair conditioner や heat pump が結果的に広く普及したと言っても過言ではないでしょう。しかし、 1970年から 1980 年代になると、CFC に逆風が吹いてきました。 これこそオゾン層破壊という環境問題です。この問題が起こってから、フロンガスに代わる「代替フロン」を探索するという作業が進み、HFCという塩素原子を含まないフルオロカーボンが登場したわけです。 1990年代、 2000年代と、 HFC およびその混合物が、 環境に優しい新冷媒として世間に普及してきて、一段落したかと思われていましたが、今度はまた別の地球環境問題が話題となってきました。
それが地球温暖化です。そして、 HFCが地球温暖化に及ぼす影響が大きいものであることがわかり、 2010 年代になるとHFC代替冷媒が必要となってきました。そして、我々はさらに優しい、次世代冷媒の探索に取り組んでいます。

NEXT-RPキックオフシンポジウム
 @I²CNER

NEXT-RP発足から半年を迎えた2016年10月7日(金)、I²CNER研究棟内でキックオフシンポジウムを開催し、連携研究機関や冷媒製造メーカー、冷凍空調機器製造メーカー等から多くのご参加をいただきました。
また、シンポジウム基調講演者の方々には、I²CNERの施設見学 をしていただき、幅広い研究への取組について的確なアドバイスをいただきました。

施設見学:主な訪問先

  • 東 之弘教授 研究室(NEXT-RP)

  • 高田 保之教授 研究室(熱科学研究部門)

  • 小江 誠司教授 研究室
    (触媒的物質変換研究部門)

  • 久保田 裕信教授 研究室
    (水素適合材料研究部門)

ご寄稿メッセージ ~NEXT-RPキックオフシンポジウム基調講演者より~

  • 慶応義塾大学渡部康一 名誉教授

    NEXT-RPの責務として、この特定分野においてタイムリーに成果を集約することを最優先させ るべきなのは言うまでもありません。国際社会に信頼される情報を発信し、斬新かつ創造性に 富んだ研究活動を行うことで、次世代冷媒への関心をより一層高められるはずです。まずは、 NEXT-RPの中に体系的な研究プログラムを目指したロードマップ構築を行うべきです。そのためには、NEXT-RPの研究プログラムを作り、多くの経験豊宮な専門家に助言を求めた上で、最終版のロードマップを作り上げていくのが望ましいでしょう。

  • 米国国立標準技術研究所(NIST)エリック・W・レモン博士(REFPROP開発者)

    NEXT-RPにおける共同研究は、研究を進める上で非常に重要な役割を担うのではないでしょ うか。方法としては2つあり、1つは、研究者に各自の最新の研究について議論するよう促すこ と。おのずと新たな連携が生まれるはずです。そしてもう1つは、研究成果の評価を行い、今後の研究の優先事項を見極めることで、作業の重複による労力の無駄を避け、研究費を確保する上でも大いに役立つでしょう。研究は個々のグループに割り当てるのではなく、連携して進めていくことで、より効果的な研究へと繋がっていくと考えます。

  • イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 アンソニー・M・ジャコビ教授

    NEXT-RPは優秀な教授陣が尽力されていることもあり、設立当初から大変評判が高いです。 その高い評価を有効活用して、関連分野において大きな影響力のある研究者を招いたシンポ ジウム等を定期的に開催し、意見交換を行うとよいでしょう。まずはどのようなパートナーシッ プを構築すべきか検討し、教育機関や企業、様々な団体との結束は何よりも強力なものであることを再認識し、そのパートナーシップを継続できるよう、個人レベルでの関係性も強化していくことをお勧めします。

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)
附属次世代冷媒物性評価研究センター(NEXT-RP)
立ち上げ主要メンバーによる座談会

※2016年4月1日(設立時)

左から 宮良 明男(佐賀大学) 東 之弘(九州大学) 高田 保之(九州大学) 小山 繁(九州大学) Bidyut Baran Saha(九州大学) 赤坂 亮(九州産業大学)

世界をリードする冷媒研究の
国際拠点誕生

一般にはあまり馴染みがないながらも、生活や産業を支える上で極めて重要な物質がある。冷凍空調に欠かせない 冷媒である。ところが、現在使われている代替フロンは、地球温暖化係数(GWP)が高く、温暖化への悪影響が危惧さ れる。地球に優しい新世代冷媒の開発が喫緊の課題となる中、2016年4月1日、I²CNER内部の組織としてNEXT-RP が設置された。そこで主要メンバーを集めて、設立の経緯から課題、将来の展望などを聞いた。

新規冷媒研究の国内拠点を目指す

小山 繁 多くの方は既にご存じのことかと存じますが、初めに少し、冷媒を取り巻く歴史的な経緯を説明します。冷凍機やピートポンプの作動媒体として使われてきたCFC(クロロフルオロカーボン)やHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)などのフロン系冷媒は、オゾン層破壊物質であることが判明し、1987年のモントリオール議定書によって使用規制がかかるようになりました。これにより開発されたのが、代替フロンHFC(ハイドロフルオロカーボン)です。ところが HFCはGWPが高いために、これも1997年の京都議定書により削減対象となりました。CFCは2010年に世界で全廃、HCFCは2020年に先進国においては原則全廃、さらにHFCに関しては2016年10月の国際会議(MOP28)において、日本を含む先進国は2036年までに2013年比で生産量の85%削減が課せられています。このような国際情勢ですので、新たな低GWP冷媒の開発は待ったなしの状況であり、日本には新規冷媒研究をリードする国際的責任があります。そこでNEXT-RPでは、環境負荷をミニマルに抑えるゼロODP(オゾン層破壊係数ゼロ入低GWPを両立する新規冷媒の熱物性、熱交換特性及びリサイクル基本性能に関する基盤研究に取り組む連びとなりました。
高田 保之 I²CNERに対してはテクノロジートランスファーが期待されていることを踏まえて、NEXT-RPでも基盤研究の社会への還元を重視しています。その意味で単なる研究者間の連携プロジェクトではなく、外部に存在を明確に示す研究センターとしての設置が望ましいと考えました。

日本唯一の冷媒研究機関に寄せられる期待

東 之弘 地球温暖化防止の観点から冷媒研究の重要性は、産業界も含めて広く認識されているものの、あくまで基盤研究であり企業収益に直結するものではありません。そのため研究継続の難しさを痛感していたところでした。しかも冷媒は最終的にさまざまなユーザーが想定されるため、基盤研究の段階ではニュートラルなアカデミックの立場からの標準化が望まれます。その意味でもNEXT-RPにおいて知的基盤を固める研究に取り組む意義は非常に大きいと考えます。
宮良 明男 外部の期待については、研究者と企業の2つの方向性があります。個々の研究者が所属する研究機関内の研究グループによる従来型の取組では到達レベルに限界がありました。これに対してNEXT-RPでは世界各地から研究者が集まり協力しながら切磋琢磨が行われる中で、従来とは次元の異なる成果を出せるものと期待されています。一方企業からは、基盤研究のレベル向上が応用につながると期待する声やNEXT-RPに研究を依頼したいとの声を学会などでよく聞くようになりました。
赤坂 亮 日本の低GWP冷媒の研究は、世界的に注目を集めるレベルにあります。この分野において世界の研究をリードする日本で、専門的な研究所が立ち上がることは、海外に対して大きな訴求効果があります。冷媒物性研究は各国でさまざまに行われていますが、その実態は必ずしも産業界のニーズにマッチしたものとはなっていません。そこでNEXT-RPに対しては、現状のニーズを把握し今後の国際的な動向も予測した上での新たな共同研究提案なども期待されています。
Bidyut
Baran
Saha
効率的にカーボンニュートラル社会を構築するためには、冷凍空調システムにおけるエネルギー効率の向上が欠かせません。そのカギを握るのが次世代の低GWP冷媒です。NEXT-RPが新規冷媒の熱物性情報について新たな成果を公開し、潜在ニーズを抱える企業と連携できれば飛躍的な進歩を望めます。I²CNERの内部研究者としては、NEXT-RPによる学際的な研究連携の推進にも期待します。

高まる期待に応えるための今後の課題

高田 保之 海外には既に冷凍空調関連の研究拠点がいくつもあります。アメリカならI²CNERと関係の深いイリノイ大学にACRC (冷凍空調研究センター)があり、 メリーランド大学とパデュー大学にも研究所があります。中国でも上海交通大学と清華大学に研究所があります。これらに共通するのが、国からの資金に加えて、企業から潤沢な資金が寄せられていることです。その意味で企業からの受け皿のなかった日本で、専門的な研究機関が立ち上がることには大きな意義があります。発足時点でこれだけの精鋭が揃っている組織は、国内では他になく 、 NEXT-RPに寄せられる期待の大きさを強く感じます。今後の私たちの戦略的な課題は2点、第1がテクノロジートランスファ ーの視点での産業界との連携強化であり、第2は日本唯 ーの冷媒研究の拠点となるNEXT-RPの世界における認知向上です。
小山 繁 戦略を具体化するうえでのポイントは3点あります。まず低GWPかつゼロODPな新世代冷媒についての物性研究、次に、新世代冷媒を実際のシステムで活用する際の特性評価に関する研究、最後に、幾つかの冷媒候補とシステムの組み合わせの中から最適なシステム提案を行うことです。決して容易とはいえない目標をクリアするための必須の要件となるの訊外部からの資金調達です。高田先生が述べられたように、アメリカでは3大学に対して産業界が巨額の研究費を投資しています。これに対して日本では専門組織がなかったために、企業の研究投資は海外に向かうしかありませんでした。こうした資金の流れを一変させることもNEXT-RPの重要なミッ ションです。与えられた課題とミッションをクリアすることで、モントリオール議定書に定められたシビアなHFC削減目標を達成することに貢献できればと考えています。

之弘
冷媒という一般にはあまり知られていない物質の研究に 特化した研究所が設立されたこと自体に、重大な意義があります。組織連営に携わる者としては、研究成果を出すことはもちろんのこと、センターの持続的な運営にも注力する必要があります。その一環としてNEXT-RPの認知向上を図るため、国内外から著名な研究者を招いて、2016年10月にキックオフシンポジウムを開催しました。会場でも強く感じたのが、 NEXT-RPに寄せられる期待感の大きさです。国内外を問わず、また産学ともにこのような研究センターの設置が望まれて いたことを強く感じました。NEXT-RPの発展のために研究者間だけにとどまらず政府や産業界とも幅広い連携体制の構築に努めます。
宮良 明男 海外での冷媒研究では著名な教授の下に数多くのポスドクや研究者が集まり、一気呵成に研究が進められています。これに対してH本では、どこかの研究室で先駆的な研究が行われたとしても、ー研究室で進めている限りスピード感に乏しく、海外の研究センターがそのテーマを取り上げて先行してしまうケースが多く見られました。その意味ではNEXT-RP が、H本における冷媒研究のスタイルを大きく変えると期待しています。九州大学I²CNERを中心として大学間連携ネットワークが組まれ、このネットワークが新エネルギー ・産業技術総合開発機構(NEDO)、さらには産業界と連携することで、最先端レベルの研究を集中的に推進することが求められています。
赤坂 亮 国際連携については、海外の研究機関との連携強化によりNEXT-RPのプレゼン ス向上に努めます。既にアメリカ、イタリア、ドイツ、中国、韓国などの研究者と国際ワークショップを定期的に開催しており、他にも情報交換も積極的に行っています。今後は海外から冷媒の研究者を招いたセミナー開催に加えて、海外の研究機関と研究協定を結び、学生の交流 も含めた共同研究を進めていく予定です。海外との共同研究成果を国際会議や論文で発表することにより、これまで接点のなかった研究者や企業との新たなパイプ作りに結びつけます。物性研究の最終的な出口となるソフトウェアについても、研究成果を速やかに産業界に発信できる仕組み作りに取り組みます。
Bidyut
Baran
Saha
何より強調したいのは、他国との研究連携の重要性です。現時点で新規冷媒の研究に取り組んでいるのは、アメリカ、イギリス、ドイツ、中国などですが、インドやシンガポール、マレーシアなどもこの分野には強い関心をもっています。NEXT-RPでは、このような国々との連携も図りながら、低GWP冷媒の研究開発を世界レベルで先導していきたいと考えています。NEXT-RPが成功をおさめた暁には、I²CNERの他の研究部門にも良い刺激となるはずです。

冷媒研究に関する世界最高の研究機関へ

高田 保之 冷凍空調産業には、今後大きな発展が見込まれています。これまで経済的な制約のために空調設備を使えなかった発展途上国で、今後は一気に普及すると予測されています。また冷房の必要性がなかったヨーロッパ諸国でも、今後は温暖化の影響により冷房が求められるようになるでしょう。産業としての規模拡大が見込まれる中で、エネルギー消費を抑え、地球環境に優しい冷媒に対する必要性は高まる一方です。アメリカには熱交換器の得意なイリノイ大学、圧縮機に強いパデュー大学、ソフトウェアを得意分野とするメリーランド大学があり、ここに流体を専門とするNEXT-RPが加わることで、多様な研究連携が加速します。こうした活動を強力に推進するためには、それに見合う予算確保が必須の課題であり、国からの予算だけに頼るのではなく、広く産業界からの支援も取り入れることが必要です。研究体制をしっかりと固めた 上で、研究者の意識向上や若手育成に努めたいと考えます。
小山 繁 冷凍空調とは、具体的には冷凍機とヒートポンプのことであり、それぞれカバーする領域は、温度帯により次の3つに分けられます。1つは冷凍、低温領域であり、低温の維持が重 要な基盤技術となります。次が生活環境に関わる温度帯で常温からお湯を作る100℃ぐらいまでで、この領域では特に省エネが求められます。さらに産業用として工場などで放出される100℃程度の廃熱をヒ ートポンプを利用することで、 200℃程度の熱源として利用するニーズもあります。これらに加えて、200℃程度の熱源で発電するためのオーガニックランキンサイクルの新世代作動媒体の研究も重要です。これらを踏まえて、革新的な冷凍機やヒートポンプシステムを早ければ5年後、遅くとも10年後にはNEXT-RPから提案できればと考えています。また、後継者育成に関しては、日本の空調機 メーカーの生産拠点となっている、ASEAN諸国の人材育成も重 要な課題と捉え、そうした国々の学生や社会人育成も担うことを視野に入れています。

之弘
NEXT-RPでは、予算措置が付かないにもかかわらず大学間の連携が実現しました。これは非常に稀なケースであり、研究参加者からは、純粋に使命感に燃える強い意志を感じます。盛り上がった気運を成果に着実につなげるためにも、予算獲得を今後の重要課題と認識しています。また「センター」と名が付いてはいるものの、実質的にはハブ(拠点)として機能し、関係各機関との連携を図ることも必要です。後に続く世代の人材育成も考えながら、世界的に認知される研究センターを目指して関係者一同、全力で取り組む覚悟ですので、ぜひともご支援、ご協力を賜りますようお願いします。