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2014.04.07

スプレーコーティングによるガスバリア性透明有機無機ハイブリッド薄膜の調製に成功

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)水素製造研究部門主任研究者の高原淳 教授の研究グループは、「Nature Communications」のオンライン版に研究成果を発表しました。

 

■概要

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)水素製造研究部門主任研究者/先導物質化学研究所の高原淳 主幹教授、I2CNER水素製造研究部門学術研究員のKevin White博士及びテキサスA&M大学(米国)のH. J. Sue教授(実験当時、先導物質化学研究所客員教授)らの研究グループは、無機平板状結晶集合体を厚み0.7ナノメートル(nm)の無機ナノシートに剥離するための簡便な手法を確立しました。無機ナノシートを混ぜたエポキシ樹脂分散液をスプレー塗布するという極めて簡易かつ省エネルギーな方法で、無機ナノシートが等間隔で積層した構造をもつ透明性の高い樹脂フィルムを作製することに成功しました。積層構造により、この樹脂フィルムは極めて高いガスバリア(気体遮蔽)性能、つまり気体を透過させにくい性能を有することを実証しました。

I2CNERでは低炭素社会の構築を目的とした基礎研究を行っていますが、本技術は太陽電池等の長期利用による性能の劣化という現在の課題を克服するための技術として応用が期待できます。

本研究成果は、2014年4月7日(月)18時(日本時間)に、英国国際学術誌“Nature Communications”のオンライン版で公開されました。

 

■背景

 ソフトマター※1が自発的に形成するナノメートル(10億分の1メートル)スケールの目視できない微細な構造は、目に見えるソフトマターの性質を大きく支配することが多く、そのため微細構造制御は近年ますます重要視され、関連研究も盛んに実施されています。この微細構造制御技術、いわゆるナノテクノロジーを工業的に応用するためには、いかに工程を省エネルギー化するかが重要となります。本研究では、物質が自発的に作り出す秩序構造を利用するボトムアップ型の技術により、簡易かつ省エネルギーで微細構造制御を達成することに成功しました。

 

■内容

 今回の研究で、無機平板状結晶(αリン酸ジルコニウム)集合体を、厚み0.7 nm(結晶格子一個分の厚みに相当)の無機ナノシートに剥離する簡便な手法を確立しました。硬化2前のエポキシ樹脂溶液にこのナノシートを分散した溶液をスプレー塗布するという極めて簡易な方法により、無機ナノシートが10nmスケールの間隔を維持して規則正しく積層した構造を内部に有する、透明性の高いエポキシ樹脂フィルムを効率よく作製することに成功しました。放射光線源(SPring-8 BL40B23を利用したX線散乱法と電子線トモグラフィー4観察手法による構造解析及び樹脂溶液の粘弾性測定により、この技術の鍵は、高分子界面活性剤5による無機結晶の表面改質6で実現される無機ナノシートの有機溶媒への高分散性と、この分散液が自発的に形成するスメクチック液晶相7の形成と液晶相の示す塗布工程に適した良好な粘弾性的性質(シアシニング現象8)であることを示しました。この平板無機ナノシート/エポキシハイブリッドフィルムは、積層した各無機ナノシートが効率的な気体分子の遮蔽壁として機能することで極めて良好なガスバリア性能を発揮することを実証しました。

 無機物の添加により包装材料のガスバリア性能を向上させる技術は既に存在しますが、ナノテクノロジーを駆使することで省エネルギーかつより少ない添加剤でコーティングフィルムの性能向上を果たした点が本研究成果の特徴です。

<スプレーコーティングによるガスバリア性透明有機無機ハイブリッド薄膜の調製過程の模式図>

無機のナノシートが平行配列している

 



■効果・今後の展開

 本研究で得られた微細加工プロセスを大幅に省エネルギー化する手法は、これまで半導体産業等で必要とされる高機能・高付加価値の材料(高価な材料)へ限定的に利用されてきたナノテクノロジーを、より生活に身近な量産製品(包装、コーティング材料等)へ利用できる道を開くことに成功しました。

 スプレー塗布コーティングという簡単な工程で、外観(特に透明性)を維持したまま様々な材料のガスバリア性能を向上させることを可能とする本研究成果は、今後様々なコーティング材料(食品や医薬品の包装材、自動車燃料タンクのコーティング・有機EL及び太陽電池等)等への応用が大いに期待されます。

 

【用語解説】

※1 ソフトマター:金属、無機材料等の硬い材料に対して、高分子、ゲル、液晶等に代表される柔らかい材料の総称です。その構造形成にはエントロピーが支配的役割を果たすことが多く、多彩なナノメートルスケールの秩序構造を形成する系が多数報告されています。

 

※2 硬化(エポキシ樹脂):高分子にエポキシ基を導入した主剤とアミン基を有する硬化剤を混合し、加熱することで、架橋反応が進行し三次元網目が形成される過程を指します。

 

※3 放射光線源(SPring-8):兵庫県播磨科学公園都市にある世界最高強度の放射光を生みだす理化学研究所の施設です。放射光とは、光速に近い速度で飛行する電子を、電磁石によって進行方向を曲げる(加速する)際に、その飛行軌道接線方向に発生する指向性の高い強力な電磁波のことを指します。
   SPring-8には測定用途に応じて約50の個別の実験用ラインが存在し、BL40B2ビームラインはソフトマターの微細構造測定を実施するのに最適化された実験用ラインです。

 

※4 電子線トモグラフィー:透過型電子顕微鏡を利用したコンピュータトモグラフィー(三次元画像再構成)技術です。ナノメートルスケールの構造を三次元画像として得ることができます。

 

※5 高分子界面活性剤:両親媒性、すなわち有機溶媒になじむ骨格と水になじむ部位を同時に有する高分子のことです。

 

※6 表面改質:無機結晶と高分子界面活性剤を超音波振動下で混合撹拌後、遠心分離による精製という簡単な工程で表面の性質を変えることができる点が本成果の特徴です。

 

※7 スメクチック液晶相:平板無機ナノシートが規則正しく等間隔に積み重なった層状構造で、この秩序を維持したまま流動性を示します。シャボン玉や細胞膜に見られる層構造もこれに相当します。

 

※8 シアシニング現象:流動速度が速い場合は粘性が低くなり塗布しやすくなる現象のことを指しています。

 

■論文タイトル

Title:

Large-scale self-assembled zirconium phosphate smectic layers via a simple spray-coating process

DOI: 10.1038/ncomms4589

Publication Date(online): April 7, 2014

 

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<報道記事>

◇ マイナビニュース

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