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2014.10.03

99%純度の半導体性単層カーボンナノチューブを選択的に分離する“脱着型可溶化剤”の創製

2014年10月3日、九州大学大学院工学研究院応用化学部門教授及び九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER燃料電池研究部門主任研究者である中嶋直敏教授の研究グループは『Nature Communications』に研究成果を発表しました。

 

■背景

資源枯渇が懸念される中、家電やコンピューターなど電子機器の省電力化や、太陽光を利用した発電の高効率化が求められています。半導体性の単層CNTは、高い移動度や、バンドギャップの多様性などから、超低電力駆動の半導体デバイスや次世代型太陽光発電の材料として期待されています。しかし、単層CNTには、炭素原子の配列の違いによって、半導体性CNTと金属性CNTの混合物として合成されます。半導体デバイスなどへの応用展開においては、それらを分離・精製することが不可欠です。

これまでに界面活性剤やDNAなど、多彩な物質を用いたCNTの分散が行われてきました。一方、ポリフルオレン(※3)のような高分子を利用することで、半導体性CNTの選択的抽出が達成されてきました。これらの方法では、分散や抽出のために添加された可溶化剤が、CNT表面に吸着する現象を利用しています。しかし、半導体デバイスへの利用には、これらの吸着可溶化分子は不純物として働き、半導体性単層CNTの期待される特性が損なわれてしまう可能性があります。そのため、高純度半導体性の単層CNTの分離とともに、そこから、吸着可溶化分子を完全に除去できる可溶化剤の開発が望まれていました。

 

■内容

研究グループは、「ダイナミック超分子配位化学」に基づいて、「結合生成—解離」が可逆的に制御できる超分子錯体に着目し、新たに分子設計、合成した有機配位子と、コバルト、ニッケル、亜鉛、および銅イオンからなる超分子金属錯体型可溶化剤を開発しました。ここでは、半導体性単層CNTを選択的に抽出するポリフルオレンの骨格に、金属錯体による一次元ポリマー化部位を導入したことで、ポリフルオレンに比べて約10倍という、有機溶媒中では世界最高レベルの可溶化量を達成しました。これは、超分子錯体の形成が、CNTの表面で逐次的に伸長される現象を巧みに利用したためです。

この金属錯体型可溶化剤は、酸を加えることで簡単に分解するように設計されており、半導体性単層CNTの表面から完全除去できることが、各種評価法により明らかになりました。また、取り除いた可溶化剤は、アルカリで中和の後、再利用することが可能です。

本研究は、ダイナミック超分子配位化学に基づいて分子設計した、「結合生成—解離」が可能な超分子金属錯体型可溶化剤による半導体性単層CNTの高効率選択的可溶化と、可溶化剤の完全除去を示した初めての研究です。

 

■今後の展開

本研究で用いた金属錯体型可溶化剤は、コバルト、ニッケル、亜鉛、および銅の過塩素酸塩を用いましたが、今後、他の金属イオンや対アニオン、溶媒を制御して研究を展開することで、可溶化剤と半導体性単層CNTの相互作用と可溶化機構の詳細についての科学的な解明が期待されます。また、同様なプロセスで、高純度、高効率金属性CNTの分離や高純度半導体単層CNTの工業的大量生産も期待されます。

 

図1.可逆に形成される超分子型可溶化剤を用いた半導体性単層CNTの選択的抽出と、再生可能なプロセスサイクル。

 

■用語解説

(1)単層CNT(カーボンナノチューブ):直径0.7〜2 ナノメートルの炭素原子のみから構成される導電性の1次元筒状物質。1993年に飯島澄夫博士により発見されたナノカーボンであり、電気を通すだけでなく、機械的強度や耐熱性、光特性など様々な優れた特性を持っている。次世代のナノテクノロジーの基幹物質と位置づけられている。 

(2)超分子錯体:「超分子」は、複数の分子が配位結合や水素結合などの相互作用により秩序だって集合した物質のことで、その概念は、ジャン マリー レーンによって提唱された。ここでは、図1に示した様に、有機配位子と金属の錯体形成により、合成できる高分子型の錯体のことである。「結合形成—解離」が容易に制御できることから、「ダイナミック超分子配位化学」と名付けている。 

(3)ポリフルオレン:フルオレンを骨格とする高分子で、長鎖アルキル基を持つポリフルオレンは、選択的に半導体単層CNTを分離できるが、効率が悪く、単層CNTに巻き付いたポリフルオレンの除去は困難である。 

 

■掲載論文

題目: Semiconducting Single-walled Carbon Nanotubes Sorting with a Removable Solubilizer Based on Dynamic Supramolecular Coordination Chemistry

 著者: Fumiyuki Toshimitsu & Naotoshi Nakashima

雑誌名: Nature Communications

DOI: 10.1038/ncomms6041

 

 

■掲載記事

 

・日経産業新聞(10月8日10面)

財経新聞

J-Net21

日刊工業新聞(10月10日19面)

・科学新聞(10月10日)

 

 

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