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2014.07.02

水素の透過現象による真空の生成を確認

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)熱科学研究部門長、高田保之教授らの研究グループの研究成果が、Elsevier社の国際学術誌『International Journal of Hydrogen Energy』オンライン版に掲載されました。

 

■概要

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)/水素材料先端科学研究センターの高田保之教授の研究グループは、金属容器に充填された水素が壁を透過し、内部が真空になる現象を確認しました。研究グループでは、水素利用機器に使用される金属材料の透過率を簡易的に測定する方法を開発し、ステンレスSUS316L及びインコネル625*1をコイル状にした容器を使って、種々の温度条件で透過率の測定を行っていたところ、300℃以上の高温で、初期圧力0.7MPa(7気圧)で充填した水素が容器の壁を透過して周囲の大気圧の窒素ガスに拡散し、10~50時間後、容器内部の圧力が最終的に10Pa(1万分の1気圧)のほぼ真空にまで減少することを確認しました。高温で水素が金属壁を透過する現象は一般的によく知られていますが、容器内部の圧力が真空になる現象はこれまでに報告されていません。

本研究で開発された測定手法を用いて、水素エネルギー機器に使用される様々な金属材料の透過率を求め、データベース化することにより、安全性向上への貢献が期待されます。

この研究成果は、2014年6月4日にElsevier社の国際学術誌『International Journal of Hydrogen Energy』のオンライン版で公開されました。

 

■背景

日本では、燃料電池自動車(FCV)の商用販売開始が間近にせまり、FCVに水素を供給するための水素ステーションの建設が進められています。水素は物質を透過しやすく、漏れやすいため、水素エネルギー機器を安全に設計するためには、水素の漏洩量を正確に予測できる手法を確立しておくことが重要です。そのためには、各種構造材料内における水素の透過率を求めて、その情報をデータベースとして整備する必要があります。

しかしながら、これまで報告されている透過率のデータは研究者毎にバラつきがあり、SUS316Lだけを見ても10倍も違うデータが報告されています。このため、信頼できる透過率のデータが必要とされています。 

 

■内容

 今回の研究では、金属材料をコイル状の管にした容器内に水素を充填して、漏洩する水素量を2つの方法で測定することで透過率の測定精度を高めることに成功しました。その計測の過程で、密閉状態にした水素が300℃以上の温度で、水素の透過により外部に漏洩し,最終的に内部が真空に達するという現象を確認しました。

 

<実験方法>

水素を金属容器に入れて、300℃以上の高温に保っていると、水素が容器の壁を透過して、内部が真空になります。そのような現象を簡単な実験装置により確認することに成功しました。

本研究では、図1に示すような水素の透過率を測定する簡単な装置を開発しました。この装置では、金属管をコイル状にした容器を用いて、以下の2種類の方法で透過率を測定します。

(1) コイルを所定の温度に保ったまま、水素を一定流量で流します。コイルの周りには窒素ガスを流します。コイルの壁を通過して漏れてくる水素の濃度をガスクロマトグラフという分析装置で測定することにより、透過率を求めます。

(2) コイルに水素を充填し、バルブを閉じて、内部の圧力をモニターします。その圧力の減少速度から水素の透過率を計算します。

水素は非常に漏れやすく、特に機械的な継ぎ手の部分から漏洩が発生しやすいので、今回開発した装置では、容器をコイル状にすることで、高温部分に機械的な接続部が存在しないよう工夫がされています。(1)と(2)の方法で測定された透過率はお互いに良く一致し、また他の研究者のデータとも概ね一致しました。

  

<容器内が真空となる現象とそのメカニズム>

(2)の測定方法において、圧力計に通じるバルブ以外のすべてのバルブを閉じて密閉状態として、内部の圧力を観察したところ、図2の結果が得られました。図2(a)はSUS316Lの結果で、773K(500℃)では約10時間、673K(400℃)では約50時間で10Pa(1万分の1気圧)にまで減少します。黒の実線は測定結果で、赤い点線は(2)の方法で求めた透過率を使用して理論的に予測した圧力変化です。両者は非常によく一致しています。

容器内が真空になるメカニズムは次のように理解されます。

水素分子が金属材料の表面で、水素原子に分解され、材料の中を拡散します。反対側の表面で再び分子に戻り、透過を完了します。その際、水素の透過量は、容器内外の水素の分圧*2のルートの差  に比例します。容器外側には窒素が流れているので、水素の分圧  はほとんどゼロです。そのため、容器の内側から外側に向かって水素の拡散が進行します。容器の外側の窒素分子は壁を透過できないので、容器内の水素の外側への透過のみが一方向的に進行します。容器内の圧力が大気圧より低くなっても、水素分圧は外側より大きいので、真空になるまでこの拡散は継続的に進行します。

実験に使った水素は純度が99.999%ですので、0.001%程度の不純物を含んでいます。初期圧力0.7MPaで充填した場合、これを分圧に換算すると7Paとなりますので、計測された10Paという最終圧力は不純物の分圧程度の圧力と理解できます。

今回の研究で、水素の透過により真空が生成できるということが実験的に明らかになりました。また、水素の透過量を2つの方法で簡便に、かつ精度よく測定する方法が確立されたので、他の水素機器用の金属材料の透過率を測定し、データベースとして構築することで安全設計に活用することができます。 

 今回開発された測定法により、簡便にかつ高精度で、各種金属材料の透過率を測定することができます。今後、水素エネルギー機器に使用される種々の金属材料の透過率を求めてデータベースを構築したいと考えています。

図1.水素の透過率を測定する装置。所定の温度に設定した上で、コイル状にした管材料に水素を流し、漏洩する水素をガスクロマトグラフで検知。あるいは水素を充填した上で、バルブを閉め、密閉状態で圧力降下をモニターすることにより透過量を決定する。

 

 図2.水素容器内の圧力の変化。黒い実線は実験結果。赤い点線は圧力減少から測定された透過率を用いて理論的に推定された圧力の変化。(a)SUS316Lの場合 (b)Inconel 625の場合

 

■効果・今後の展開

今回の研究で、水素の透過により真空が生成できるということが実験的に明らかになりました。また、水素の透過量を2つの方法で簡便に、かつ精度よく測定する方法が確立されたので、他の水素機器用の金属材料の透過率を測定し、データベースとして構築することで安全設計に活用することができます。 

今回開発された測定法により、簡便にかつ高精度で、各種金属材料の透過率を測定することができます。今後、水素エネルギー機器に使用される種々の金属材料の透過率を求めてデータベースを構築したいと考えています。

 

■用語解説

※1 SUS316L及びインコネル625:SUS316Lは水素ステーションの蓄圧器、配管、バルブ等に幅広く用いられている材料です。また、インコネル625はニッケルをベースとする合金の一種で高温での強度に優れた材料です。 

※2 分圧:多成分から成る混合気体のうち、ある1つの成分が混合気体と同じ体積を単独で占めたときの圧力のこと。

 

■掲載論文

題目:Vacuum generation by hydrogen permeation to atmosphere through austenitic and nickel-base-alloy vessel walls at temperatures from 573 K to 773 K

著者:N. Sakoda, R. Kumagai, R. Ishida, K. Shinzato, M. Kohno,Y. Takata

 

雑誌名:International Journal of Hydrogen Energy

DOI: 10.1016/j.ijhydene.2014.05.031

 

掲載記事

財経新聞(7月3日)

マイナビニュース(7月3日)

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