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2014.02.20

地盤沈下していると考えられていたタイ王国・バンコク市中心部の地盤の隆起を特定

2014年2月14日、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER) CO2貯留研究部門 部門長である辻 健准教授や京都大学などの研究グループは、Wiley社の国際学術誌『Geochemistry, Geophysics, Geosystems』のオンライン版に研究成果を発表しました。

 

■概 要 

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER) CO2貯留研究部門 辻 健准教授や京都大学などの研究グループが、PS干渉SAR解析とよばれる手法を衛星データに適用してバンコク市内の地表変動を推定したところ、データ解析を行った2007年以降については、バンコク市の中心部は隆起していることが明らかになりました。本研究成果は、2014年2月14日(米国現地時間)にWiley社の国際学術誌 『Geochemistry, Geophysics, Geosystems』のオンライン版で発表されました。

 

■背 景

 タイ王国・バンコク市内では、地下水の過度な利用により、1970年代に地盤が急激に沈下したとされています。その後、タイ政府によって導入された地下水の汲み上げ規制などにより沈下は減速したものの、現在に至るまで地盤沈下は継続していると考えられていました。また、気候変動の影響による海面上昇などの要因も重なり、バンコク市内における洪水発生への懸念が高まっていました。2011年に発生したバンコク市大洪水の原因の一つにも、地盤沈下が指摘されていましたが、これまでバンコク市内の広域的な地表変動に関する詳しい情報はありませんでした。

 

■内 容

 研究グループは、バンコク市内の地表変動を調査するため、広域的な地表変動の測定を可能とする「Persistent Scatterer(PS)干渉Synthetic Aperture Radar(SAR)解析」(※1)とよばれる手法を用いて、2007年から2011年までのバンコク市内の地表変動のマッピングを行いました。その結果、今回データ解析を行った2007年以降については、郊外の工業地帯を除くほとんどの地域で地盤沈下は止まっており、これまで沈下していると考えられていたバンコク市内の中心部は隆起していることが初めて明らかになりました。(図1)。その隆起速度は速く、年間で最大2 cm程度に達していることも分かりました。更に地表が隆起している地域では、地下水位が上昇していることを確認し、この地下水位の回復が隆起の原因であると考えられます。

 

■効 果

 「PS干渉SAR解析」によるモニタリングは、地盤沈下といった地表変動を把握し、地盤のマネージメントを行う上で有効です。今回の観測から、地下水の汲み取り制限は、地盤沈下を減速させるだけでなく、地盤上昇を促すことも分かりました。バンコク市以外の地盤沈下が顕著な地域に対しても「PS干渉SAR解析」を用いたモニタリングと、それに基づく適切な地下水汲み上げ規制を導入すれば、その地域の地盤沈下の回復及び防止に役立つことが考えられます。

 

■今後の展開

 今回は、バンコク市内周辺の広範囲の地域を解析の対象とし、バンコク市中心部で隆起を確認しました。しかし、局所的に地盤沈下が認められる地域もあり、これらは地下の帯水層の分布や、地下水の取水地域(工場など)と関係していると考えられます。今後は、衛星データをより詳しく解析し、局所的な変動についても調査を行っていきます。

 また現在、バンコク市中心部は隆起しているものの、1970年代の高度まで回復しておらず、今後の推移についても詳しく調べていきたいと考えています。

 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)CO2貯留研究部門では、大気中の二酸化炭素削減を目的として、二酸化炭素を地下深部に貯留し、圧入した二酸化炭素のモニタリングを行う技術の開発を行っています。今回使用した地表変動モニタリング技術は、地下に圧入された二酸化炭素の分布をモニタリングする上でも重要な技術です。今後更に効果的なモニタリング技術の開発を通じ、地盤の変動を精度良く把握するための研究を進めていきたいと考えています。

 

<用語解説>
1. 【PS干渉SAR解析】 
同一地域を複数回観測した衛星データ(SARデータ)の位相差を使い、 観測期間内に生じた地表変動を推定する手法です。この手法を用いることにより、広域的な地表の変動を、センチメートルよりも高い精度で推定することが可能になります。 【図1】衛星のデータ解析で明らかとなったバンコク市内の鉛直変動。正の値は隆起、
    負の値は沈降を表している。バンコク市中心部では隆起していることが分かる。

 

プレスリリースの詳細

 

 ■論 文
Title: 

Natural surface rebound of the Bangkok plain and aquifer characterization by persistent scatterer interferometry

 

Authors: Kazuya Ishitsuka, Yo Fukushima, Takeshi Tsuji, Yasuhiro Yamada,

              Toshifumi Matsuoka, Pham Huy Giao

DOI:10.1002/2013GC005154

Article published online: 2/14/2014

 

 



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